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インタビュー

2006年10月 30日 14時30分

KLabの湘南アドバンストラボに見る、産学官連携の新しいサービス開発の形

インタビュー:別井貴志(編集部)
文:榊原大輔

 10月30日、KLabから新しい携帯電話向けポータルサイト「qewi(キューィ)」が正式にリリースされた。日本中のブログから情報を収集し、現在流行しているトピックスを抽出、ランク付けした上でユーザーに提示する。ユーザーは検索をしなくても、多くのブロガーが面白いと感じているコンテンツを整理された状態で見られる。

 qewiを企画し、サービスリリースに持ちこんだ中心人物のひとりが小林慶太氏(22歳)だ。慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の4年生ながら、KLabの社員として活動している。サービスを十二分な形で実現するために独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「中小ITベンチャー支援事業」に応募、その支援を受けるという行動力も見せる。

 小林氏にqewiの開発経緯や、KLabでの活動などについて話を聞いた。そこには、新しいタイプの起業ルートとなり得る産学官連携の形が見える。

--学生ながらKLabの社員としてサービスを開発されたのはどういう経緯によるものですか。

 私がKLabが支援している、神奈川県湘南地域の大学生や大学院生による研究開発機関「湘南アドバンストラボ」の代表だからなんです。KLabが行っている産学官連携事業として「大学前ケータイラボ」という取り組みがあるんですが、その拠点のひとつが湘南アドバンストラボです。形態としては、KLabの中の一組織にあたりますね。だから、湘南アドバンストラボのメンバーは、KLab従業員という扱いになるんです。

 大学前ケータイラボとは、KLabが大学生や大学院生に資金等の支援をしながら、主に携帯電話関連のサイトやアプリケーション、技術の開発を推進していこうという試みだ。KLabの設立当初(設立時の名称はケイ・ラボラトリー)から行われている。大学のほど近くに拠点が置かれるため、「大学前」ケータイラボという名称が付いた。湘南アドバンストラボも、SFCキャンパスの最寄り駅である湘南台駅の近くにある。

--KLabからはどういう形で支援を受けるんですか。

小林慶太氏

 子会社と同じような形と考えて頂ければいいと思います。KLabには企画を出して折衝をし、予算をもらう。KLabの他の社員とも連携をしていきます。

 ただ、湘南アドバンストラボは法人ではなく、KLabという会社から見ればあくまでも一組織となります。湘南アドバンストラボのメンバーとしては、支援をしてもらって面白いことをさせていただいているという感じですね。

--小林さんが大学前ケータイラボに関わったきっかけは。

 1年半前、代表に就任するときの話です。湘南アドバンストラボの前身である「SFC前ラボ」のメンバーが、卒業などで全員抜けることになったんですよ。そこで、当時の代表から、「やってみないか」と誘われたんです。これが、大きなきっかけのひとつですね。

 あと、日本の携帯電話市場は世界的に見ても特殊なんじゃないかという意識をずっと持っていました。ユーザー自らが携帯電話でブログなどのコンテンツを作っていき、自身の楽しみを増していくという面白い世界ですよね。この世界に挑戦してみたいなと考えたんです。そこで、携帯電話での事業の立ち上げ方を知るために、大学前ケータイラボに関わることに決めたんです。

 この時は、メンバーを一から集めて、KLabにも相談しながら事業計画を立てて、新たに「やらせてください」とお願いしました。

--大学前ケータイラボに入る前からベンチャーに関心があったのですか。

 ビートコミュニケーションやガイアックスなど、いわゆるベンチャー企業でインターン活動を重ねていましたね。

 高校生までは、普通に会社に入って、勤め人になるんじゃないかと思っていました。転機になったのは、ビジネスプランコンテスト「KING」に出場したことです。ここで、審査員としていらっしゃっていた、当時は楽天の取締役副社長だった本城さん(本城愼之介氏、現職は横浜市東山田中学校校長)とお話ししたんです。

 そのとき、「自分の考えたサービスを広めていくというのは面白そうだな、こういう道もあるんだな」と思ったんです。そして「自分はどこまでできるんだろう」って。それがベンチャーに関心を持つきっかけになりました。

 その後、小林氏はqewiのサービスを開発するべく、IPAの中小ITベンチャー支援事業に応募する。この制度は、優れたIT関連技術を持つ中小企業を選定した上で、ソフトウェアの商品化や事業化を支援するもの。資金のほか、運営面や技術面でのサポートを提供する。

--IPAの中小ITベンチャー支援事業に応募したのはなぜですか。

 KLabに支援をいただきながら湘南アドバンストラボを運営しているわけですが、もともと外部にも一緒にやっていだだけそうなところを探していたんです。

 「未踏ソフトウェア創造事業」に選ばれて助成金を受けている先輩から、IPAは支援体制がしっかりしているので、今回の案件の支援を仰いだらいいのではないかというアドバイスをもらいました。また、自分でもいくつかの支援制度を調べて比較した結果、IPAへの応募を決定したのです。

 3月末に応募をして、書類審査を経て4月の中旬に面談を受けました。

--自信はありましたか。

 いえ。こういう支援制度へ応募したのは、まったく初めてでしたから。応募書類を書くときも、何度も試行錯誤しました。書類審査に通ったと聞いたときは純粋に嬉しかったです。

 面接にあたっては「qewiの面白さを伝えるためのプレゼンって、どうすればいいんだろう」と、やはりかなり考えました。本番はこの準備のおかげで、巧拙はともかく、精一杯伝えられたんじゃないかと思います。

 プレゼンの後は、おとなしく待ってましたね。落ちたら仕方ないし、受かったらありがたいなと。ありがたいことに5月末、「通過しました」という電話をいただきました。

 そこからは、とにかく提供するものがないと何もできないと考えて、4カ月くらいqewiの制作に注力していました。

--qewiの運営体制について聞かせてください。KLabと湘南アドバンストラボのどちらが中心になっているのですか。

 湘南アドバンストラボがqewiの運営を主にしていますね。そこにKLabが支援する形になります。現在、湘南アドバンストラボのメンバーは4人。企画制作から運用までをする人が2人、開発が2人です。メンバーは僕、いや私と同様に、契約上はKLabの社員となります。

 自分の一人称を何度も言いよどむなど、学生らしい側面も見せる。かといって、小林氏は取り繕おうと気負ったり慌てたりするわけでもない。終始笑みを崩さない。けれども、そこにある笑顔は、間違いなく22歳そのものでもある。

小林慶太氏

--KLabとのやり取りはどうしていますか。

 週に1、2回、六本木ヒルズにあるKLabの本社でミーティングをしています。ただ、サービスの開発や運営はとても自主的にやらせてもらっています。

--湘南藤沢キャンパスと、六本木を行き来するわけですね。

 月曜日はKLabにいます。火曜日と水曜日は大学に行きながら、サービスの開発などもしています。木曜日は湘南アドバンストラボにいて、金曜日はKLabか湘南アドバンストラボのどちらかにいます。

--大学前ケータイラボの仕組みで働いていて良かったと思うことは。

 KLabにはこういう柔軟な場を与えていただけることに、本当に感謝していますね。資金援助だけでなく、事業面でのサポートがあることは本当にありがたいです。いろいろなアドバイスもいただけますし。

 いきなり起業をするという選択肢もあったとは思うんです。実際、友人で起業している人間もいますし。ただ、私がそちらに進まなかったのは、必要以上に苦労してしまうなと考えたからなんです。

 会社というベースを持った上でサービスを作って、その上で必要であれば起業する。こういうプロセスを踏んだほうが、効率的で、リスクも少ないかなと。それに、こちらの方が自分に向いているとも思いました。

--今後は、どのような展開を考えていますか。

 qewiに関して現在お伝えできることは2つあります。1つは、ネット上の情報を雑誌のような形で伝えていきたいと思っています。情報をユーザー層に合わせてセグメント化することで、それぞれのユーザー層に対し、欲しい情報をピンポイントで提供していければ良いなと。もう1つは、ユーザーの参加を促す仕組みを盛り込んでいきます。ブロガーとの交流や、投票とブログランキングとの組み合わせなど、参加することによって楽しくなるような仕掛けを入れていきたいと思っています。

 湘南アドバンストラボに関して言えば、私を含め、現在のメンバーが抜けた後でも存続させていけるように考えていくつもりです。大学前ケータイラボ構想にもとづいた湘南アドバンストラボという存在は、とてもいい仕組みだと思っています。こういう、起業という形とは異なる、しかも学生が主体的に関われる価値実現の道は、もっと拡がって良いものだと思います。

--小林さん自身の目標は。

 将来的には、独立を目指していきます。何らかの形で経営者の立場に移って、自分のやりたい事業を立ち上げていこうと思っています。その際には、今まで勉強させてもらったノウハウを元にして、今とは違った、新しいことをしたいですね。ただ、まずは、色々な人に関わっていただいたqewiをきちんとやりきることが第一だと考えています。