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2006年9月28日 15時44分

「新しいゲーム開発の仕組みを作り上げる」--SignalTalkの挑戦

インタビュー:西田隆一(編集部)
文:榊原大輔

 ゲーム制作の開発資金をプロジェクト単位で募る仕組み「プロジェクトファイナンス」を導入したSignalTalk Corporation。

 ハリウッドでは映画制作の資金調達の手段として一般的に使われている仕組みだが、国内で、しかもゲームの制作に導入するのは非常に珍しい。SignalTalkは1年間でインターネット広告代理店のオプトやゲーム開発企業のケイブなどから5000万円を調達し、オンライン麻雀ゲーム「Maru-jan」を開発。2004年4月に有料サービスを開始し、2006年9月には会員数が10万人を突破した。

 プロジェクトファイナンスを日本のゲーム制作に導入しようと考えた意図はどこにあったのか。また、日本ではまだ珍しい仕組みをどのように出資者に納得させ、プロジェクトを成功に導いたのだろうか。創業者で代表取締役社長代表取締役社長を務める栢孝文(かや たかふみ)氏に聞いた。

--SignalTalkがプロジェクトファイナンスを導入しようと考えたいきさつや理由は何だったのですか。

 少し昔の話から始めますね。1999年、前々職であるセガ・エンタープライゼス(現セガ)のゲーム開発者としてアクションパズルゲームの「チューチューロケット!」というゲームを手がけました。社会人1年目の作品でしたが、幸いにも多くのゲーム雑誌に取り上げていただきました。初めのころは嬉しい気持ちが先に立っていたのですが、しばらく経つと疑問に思えてきたんです。

 「なぜ、こんなに取り上げられるんだろう?」

 ゲーム会社は新しいゲームを作って世の中に送り出していくのが仕事です。仕事として当たり前のことをやっているのに、注目されたのはなぜなんだろう。月に何十本と出ているゲームの中からチューチューロケット!が注目されたのはどうしてなんだろう。言ってみれば、変なネコとネズミが走り回るパズルゲームというだけなのに。

 いろいろ考えてみて、自分の中で出した結論は、チューチューロケット!のように新しいアイデアを持ったゲームが珍しかったから、ということでした。ちょうどこの頃、ゲーム業界全体に、3D技術が本格導入されてきたんですね。それにともない、ゲーム開発には莫大なコストがかかるようになってきました。ファミリーコンピュータの頃は、1タイトルあたり1000万円程度だった開発費が、億の単位になることも珍しくない状態になってきた。

 大きなお金が動いている以上、失敗するわけにはいかないという事で、売れそうなものだけ開発するという流れがゲーム開発現場に生まれてきたんです。簡単に言えば、続編主義、大作主義になってきたということですね。そんな状況の中だからこそ、新しいアイデアで作られたゲーム、チューチューロケット!の登場が特別な事件のように注目された。

 そこで思ったんです。新しいアイデアで作られたゲームがもっとたくさん出てくる仕組みを作らなくてはいけないんじゃないかと。いろいろな新しいタイプのゲームが次々に市場に出てきて、お客さんであるゲームユーザーは多様なものを楽しめる。そういう状況を作り出せる仕組みが必要なんじゃないかと。そうならなければ、ゲームという存在そのものが、そのうち飽きられてしまうかもしれない。そういう危機感を抱いたんですね。

--その後、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)に移られましたね。

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 SCEで分かったのは、株式会社という仕組みの上では新しいアイデアで作られたゲームを継続的にリリースしていくのは難しいということです。

 SCEでも新しいゲームを発掘する試みを積極的にしているんですよ。新しいアイデアのゲームを出していこうというプロジェクトも内部では進行していました。しかし、それは継続的に続かないことが多い。

 その原因は、株式会社、特に株式公開をしている会社が、活動資金の多くを株主の投資により得ているところにあります。投資をしてくれている株主に不利益を出すわけにはいきません。「会社の業績を悪化させ、株価が低下」という危険はできるだけ避けたいわけです。そう考えていくと、どうしても「企画は魅力的だけれども収支の見通しが立たないゲームよりは、収支計算の立ちやすい続編物を主力にしていこう」という意思決定が進んでいってしまうわけです。

 資金を得るための株式という仕組みと、新しいアイデアを持ったゲームを作るというゲーム会社の機能とがぶつかっている。じゃあ、それをクリアする方法はないのか。いろいろと探してみたんです。ひと通りゲーム業界を調べてみて、ゲーム業界にはなさそうだと。そこで、他の業界も調べてみた。

 すると、ハリウッドに突き当たったのです。ハリウッドでは、「スター・ウォーズ」シリーズのように続編の大作映画は多い。しかしその一方で、「マトリックス」のようにまったく新しい映画も生まれてくる。しかも、そういう新しい映画に数億円、数十億円といった大量の資金が投入されてもいる。その資金の流れを支えている仕組み、それがプロジェクトファイナンスだったんです。

 ハリウッドのプロジェクトファイナンスの仕組みは、できあがった脚本に対してお金を集めるというものです。投資側はまず脚本を見て、面白いと判断した映画制作プロジェクトに対して投資する。制作会社側は十分な制作資金を受け取った状態で、資金には大きなリスクを負わず、映画作りに没入できる。映画がヒットし、十分な利益を得られれば、投資に対してのリターンが発生する。

 会社ではなく作品に出資をする仕組み。これを日本のゲーム業界に取り入れられないだろうかと思った。プロジェクトファイナンスをゲーム制作に導入しようと思ったいきさつはこんな感じですね。

--制作側が資金リスクを負わない点が魅力なんですね。

 別の利点もあります。資金調達を株式発行でするとします。手持ち資金をほとんど持たずに起業をした場合には、仮に投資を集められたとしても、社長の持ち株割合がほとんどなくなってしまいますよね。株式に投資をした人の意向を反映する義務が出てきますから、会社を経営していくにあたっていろいろな出資者の意見を聞かなくてはならず、自分のやりたかったことがぶれてしまったり、意思決定が遅くなったりする危険性がある。

 プロジェクトファイナンスは、会社の成功ではなくプロジェクトの成功に興味のある人に出資を求めます。SignalTalkの場合、いくら出資を集めても、株式は私が100%持ったままですから、思い切ったスピーディな判断ができます。これまでの例で言えばぐるなびとの事業提携があります。話があってから2週間で発表に至りました。もちろん、その際には出資してくださった人や企業に話を通して、意向を聞くのは大切なことですけれどもね。

--プロジェクトファイナンスに投資をした人は、プロジェクト運営に関して口を挟む権利はないということですか。

 商法上の匿名組合の仕組みを使っていますから、法的なことだけを言えば、プロジェクトファイナンスに投資をした人は議決権を持ちません。監査をする権利、配当を受け取る権利はもちろんあります。

 出資者は、アドバイスはできるけれど経営上の決定をする権利はない。この事は、会社経営上の意思決定をする際に重要な影響を及ぼすことがあります。例えば、SignalTalkはポータルサイトに対してゲームタイトルを提供する戦略を採っています。ここではタイトルを提供できるポータルサイトの数が増えれば増えるほど望ましい。しかし、会社の運営に決定権を持った大手資本が絡んでくると、その大手資本に関連する系列ポータルとしか契約できなくなってくる可能性も出てきますよね。プロジェクトファイナンスの仕組みではそういうことも避けられます。

--2002年に、当時は先があまり見えなかったオンラインゲームの制作プロジェクトへ出資を募ったわけですよね。資金集めは大変だったんじゃないですか。

 大変でした。創業当初、ゲーム制作に5000万円が必要だと考えていました。創業時の仕事はお金を集めること。これに1年かかってます。1年の間に800人くらいの人に会って出資をお願いしていきました。他社から仕事を受注してお金を稼ぐという選択肢もあったでしょうが、それでは自分たちのやりたいことを実現するために、またオンラインゲーム市場の初動をとらえて波に乗っていくために、遠回りになるだろうと思ったのです。

 このときは出資をいただくだけの信用を得るのに苦労しましたね。自己資金がない、実績がない、超有名クリエイターだというわけでもない。何もないところからのスタートです。当然のように断られる。それでも、次々に人に会い続けていく。

 そうすると、そのうちに人に紹介してもらえるようになったんです。「君のやりたいことは分かった。残念ながら自分が手伝うことはできないけれど、力になってくれそうな人なら紹介できるよ」と。

 紹介された時の信用力はとても大きいものです。話を聞いてくれなかった方が、他の人からの紹介を経由したら話を聞いてくれたということもありました。こうやって紹介されることを繰りかえし、積み重ねていったら、どんどん信用があがっていったんですね。人脈というのはつながってますから。

 そうこうしているうち、紹介元の人が強いつながりを持っている方にも紹介してもらえる機会がでてきました。例えば、一緒に創業をしたといったような間柄の人。この場合には、紹介先の人がはじめから受け入れる体制で話を聞いてくれるんですね。「あいつから紹介された奴なら、頼みを聞いてやろう」といった感じです。

 弊社の主力商品である「Maru-jan」に出資しているオプトさんやケイブさんも、最後にはそういう強いつながりを経由して紹介を受けたという経緯があります。結局、強い間柄の人へ紹介してもらうに足りる人材、会社でなければ出資してもらえないのだということを学びました。

--信頼を得るために取り組んだことは何かありますか。紹介されるには、それなりの実績などが必要になってきますよね。

 もちろん、紹介してもらうにはこちらもその信用に足る存在でなくてはならない。それには当たり前のことを当たり前にやるということが重要ですね。例えば、事業計画にアドバイスをもらったら、きちんと反映して変更したものを見せる。メールや連絡をもらったときの返事はきちんとする。会える機会をもらったら必ず会う。こうした細かいことが、後でつながっていくんです。

 また、仕事自体に高いクオリティを出すということも大切です。ゲーム制作で言えば、ゲームの面白さというクオリティはもちろん、バナーひとつ、文言ひとつ、ユーザーへの対応ひとつ、一切をないがしろにせず、高い品質を追求する。そういった品質管理面でのクオリティをキープする。これが会社の評判となり、出資につながっていったのだと思っています。

--プロジェクトファイナンスを導入して創業することを決め、出資者を募ったわけですが、もともとファイナンスの知識は持っていたのですか。

 ありませんでした。ただ、大学生のときに業務用システム開発をする小さな会社を作っていて、税務、開発、営業など、いろいろなことを自分でするという経験をしていたのです。ここで会社運営の全体を見る視点が身についていたんですね。物を作ることも大切なんだけれども、お金をコントロールする仕組みを考えることが大切だなと。もっと言えば、会社の仕組み自体を俯瞰して見るということが大切だなと思ったんです。セガ・エンタープライゼスでもSCEでも、その視点はずっと持って仕事をしていました。どういう仕組みでこの会社は動いているんだろうと。

--仕組みですか。

 ええ。仕組みを作り上げて、残していきたいという思いは強いんです。ゲームそのものはもちろんですが、「こういう仕組みを始めたのは栢孝文なんだよ」と言われるような業界的な新しいチャレンジをして、結果を残していきたい。それはゲーム業界を拡大させることにもつながると考えます。プロジェクトファイナンスの導入というのは、そのひとつですね。

 プロジェクトファイナンスの導入以外で弊社が導入している新しい仕組みは、大きく分けて2種類あります。ひとつは、スタッフに利益を分配する仕組み。もうひとつは、新しいタイプのゲームを生み出していく仕組みです。

 1つ目のクリエイターに利益を分配する仕組みとは、従業員に向けたものですね。ゲーム制作に携わるスタッフたちが良い仕事をして、ヒット作品は生まれていく。その功績に対して、車やマンションが買えるくらいの還元をしたいと考えたんです。具体的に言うと、弊社ではプロジェクトファイナンスの出資者へ配当金を支払った後のプロジェクトの純利益の50%を、プロジェクトに携わったスタッフに分配することが就業規則で決められています。社内資金で立ち上げるプロジェクトの場合はSignalTalkが投資しているという形にはなりますが、考え方は同じです。

--その分配では、スタッフはいくら位もらえるものなんですか?

 昨年の実績は、ボーナス的な表現でいえば平均で6カ月分くらいですね。今年はまだ計算をしている途中ですが、会社の業績がおおよそ3倍くらいに成長していますから、それに見合ったものになればと考えています。来年はマンションが買えるくらいの分配を目指したいところです。

--スタッフの人たちのモチベーションも上がりますよね。

 裏を返すと、プロジェクトの純利益がなければ、給料は別として分配はありませんから、厳しい仕組みだと言えるのかもしれませんけれども。

 分配額は各スタッフで平等なわけではありません。どれだけ分配されるかは、大まかに言えば「相互評価×労働時間」で決まります。まず、プロジェクトに携わったスタッフが相互評価をするんです。自分以外のスタッフの、プロジェクトに対する貢献度はどれくらいなのかを互いに評価しあう。他のスタッフに評価されないと分配される度合いは低くなります。これにプロジェクトのために働いた労働時間をかけて最終的な分配率が決まることになります。つまり、他のスタッフに高く評価されるか、長い時間働くか、もしくはその両方か。これらで収入が上がっていくようになっています。

 また、プロジェクトに携わる時間配分は自分で決められます。あるプロジェクトは利益が出そうにないけれども、そのプロジェクトをどうしてもやりたいから、仕事時間の2割くらいを振り分けたい、といったことも自分自身で決められるようになっています。

 2つ目の、新しいタイプのゲームを生み出していく仕組みには、ヤフー、バンタン電脳ゲーム学院の協力を得て試みている「サンデーゲームスタジオ」があります。これは、ひとことで言えばゲームスクールですね。ゲームを作る学校を日曜日に開いているんです。最終的にはゲームを実際に制作して、SignalTalkのプロジェクトとして世に出していく。

 ゲームスクール発のゲームを製品化するということは他のゲーム会社さんでもやってはいます。しかし、大抵の場合は権利をゲーム会社が持っていってしまう。サンデーゲームスタジオでは、ゲームの権利はゲーム制作者の人たちの所有物として尊重しますし、制作者の名前も前面に押し出していく。この仕組みから新しいスーパークリエイターが出ていって欲しいと考えています。

--今後の目標はどの辺にあるのでしょう。会社を大きくする予定などありますか。

 コンテンツ会社は大きくなることが目的ではありませんからね。大きくなることを否定はしませんが。弊社の場合は、業界、そしてお客様にインパクトを与え続ける会社であることが大切だと考えています。

 今後の目標として、まず、ゲームで遊んでいただいているお客さんに対しては、より楽しんでいただけるようにすること。弊社のゲームで遊ぶ時間がストレス発散の時間になればと考えています。Maru-janで遊んでいただいているユーザーの方からメッセージをいただくことがあるんですよね。「仕事から帰ってきて、これが寝る前の息抜きです」とか、「子育てで外に出られないので、とても楽しみにしてます」とか。日々暮らしていけばストレスもたまりますから。100あるストレスの1でも10でも解消してもらえるならば、遊んでくれるお客さんに対して価値を提供できていると思うんです。

 成功利益をスタッフに還元する仕組みも、さらに考えなくてはならないと思っています。金銭的な面で言えばプロジェクト純利益の50%を分配するという仕組みを実施し、今年の利益分配でスタッフが車くらい買えるんじゃないかという状態になってきました。ただ、今の仕組みに乗れないスタッフもいます。こういったスタッフをどうフォローしていくか。その仕組みを考えていくのも今後の懸案事項です。

 究極には、変な話ですけれど、オンラインゲームで世界平和に貢献したいですね。オンラインゲームで一緒に遊ぶ。ネコとネズミが走り回る変なゲームで、米国のおじさんと、日本の女子高生と、アラブの子どもが遊んでコミュニケーションする。楽しく遊んだ相手とだったら、けんかはするかもしれないけど、殺し合いはしないでしょう?これは、ゲームにしかできないことだと思ってます。