2007年12月14日 08時00分
永井美智子(編集部)
2007年のインターネット業界で最も話題になったサービスの1つが、ドワンゴと子会社のニワンゴが共同運営する「ニコニコ動画」だ。多くのユーザーを集めたその開発手法については、記事「ニコニコ動画に学ぶ、人気サービス開発の極意」でご紹介した。今回は、ニコニコ動画というサービスを生み出した企業文化に焦点を当て、なぜニコニコ動画のようなサービスが生まれるに至ったかを見ていくことにする。
ニコニコ動画は、コミュニケーション素材となる動画からコメント、分類タグ、掲載するアフィリエイト広告に至るまで、ユーザーの手に委ねている。違法な動画の削除や場を荒らすコメントを書き込むユーザーのアカウントを停止することはあるが、ニコニコ動画のコンテンツは基本的にユーザーが作り上げたものだ。
それは、サービス提供側がユーザーの行動を信頼し、ともにサービスを作っているということでもある。
「(ユーザーに委ねるのは)怖いですよ。でもそれはリスクと考えるか、チャンスと考えるかだと思うんですね。リスクは当然ヘッジする方法を考えながらやります。でも、これはチャンスだと思うんです。新しい、今までにないものを生み出すのはチャンスじゃないでしょうか」とニワンゴ 代表取締役 兼 ドワンゴ ニコニコ事業部 部長の杉本誠司氏は話す。
ニコニコ動画のこういった姿勢のルーツは、ドワンゴの創業経緯にあるようだ。ドワンゴはオンラインゲームの運営企業に勤めていた現代表取締役会長の川上量生氏と、ネット上の掲示板で集まってゲームを制作していたグループ「Bio_100%」のリーダーである現取締役の森栄樹氏が共同で設立した。ネット上で知り合ったオンラインゲームの運営者や開発者が集まった、「ネットの世界で生きている、ネットに移住した人が作った日本初の会社」(ドワンゴ代表取締役社長の小林宏氏)だ。
川上氏はドワンゴについて、「ネット上にいる腕利きのプログラマーが楽しく働ける会社を作りたかった」と話している。ネット上で暮らす人に、心地良い居場所を提供したい――そんな思いがニコニコ動画の底流にはある。そしてそれは、ニコニコ宣言(仮)の「ニコニコが提供したいのは人間が生存するためだけであれば、きっと必要のないものかもしれませんが、仮想世界においてユーザーが人間らしく生きるために大切にしたいと思うようなサービスです」という一文に表れている。
ニコニコ動画の開発者になぜニコニコ動画がここまで人気を集めるサービスになったのかと話を聞くと、「運が良かった」というような言葉が出てくる。たとえばドワンゴ 研究開発部 技術開発セクションの戀塚昭彦氏はニコニコ動画のプロトタイプを3営業日で完成させたが、それは直前まで社内プロジェクトで使っていた技術をうまく活用できたためだと話す。「本当にタイミングがよかった」(戀塚氏)
また、動画共有サービス「SMILEVIDEO」も1週間強で開発しているが、その時には個人的に動画共有サービスを開発していた社員がたまたまいたため、そのノウハウを活用できたという。「なぜ1週間でできたかと言えば、YouTubeからアクセスを拒否されたという危機感と、たまたまサービスを開発していた人がいたという運の良さがある」(千野氏)
ただし、この「運の良さ」の背景には、それまでに積み重ねた技術開発の歴史がある。ドワンゴは創業メンバーがプログラマーということもあり、研究開発に大きな比重を置いているのだ。
決算資料を見ると、売上高に占める研究開発費の割合は過去5年間の平均が8.0%、直近の2007年9月期に至っては12.0%と、同業他社に比べてはるかに大きい。例えば着信メロディや着うたを主力事業とするエムティーアイは過去5年間の平均が0.1%、インデックス・ホールディングスは0.3%。研究開発費が比較的多いサイバードホールディングスでも5.0%だ(なお、モバイルサービス事業で急成長しているディー・エヌ・エーは研究開発費用という項目で計上していないため、比較できない)。開発者が「ドワンゴは技術の会社」と口を揃えるのはこのためだ。
戀塚氏は、ニコニコ動画を開発した直前に参加した社内プロジェクトで初めてPHPを学び、ウェブサーバの構築に使ったと話す。また、「その2つくらい前のプロジェクトでActionScript(動画プレーヤーに採用したFlashで、ユーザーがコメントを書き込めるようにするためのスクリプト)に対応したパケット定義機能をちょうど追加したところだった」といい、ニコニコ動画を作るために必要な要素技術がちょうどそろったことが大きかったと話す。
それまでに社内で培った、技術を重んじる文化とさまざまな研究開発が、ニコニコ動画という形で実を結んだといっていい。
このほか、それまでモバイルコンテンツ事業を主力としていた経験が生かされている部分もある。
前回の記事で紹介したように、ニコニコ動画は当初、機能をできるだけ絞り、ユーザーの反応を見ながら機能を追加していった。できるだけサイトをシンプルにする、という発想の奥には、モバイルサイトでの苦労がある。
「携帯電話の画面だと、どうしてもごちゃごちゃしたことはできない。工夫できる部分が少ないからこそ、すごく頑張って工夫しないといけないというところがある。その考え方をPCに持っていった」(ドワンゴ ニコニコ事業部第一セクション セクションマネージャーの中野真氏)
サイトの中でできることが少ないということは、ユーザーにとっては「それさえすればいい」という安心感につながる。まずユーザーの心理的な敷居を下げて多くのユーザーを呼び込み、ユーザーがサイトに慣れたところで少しずつ機能を追加してユーザーのリテラシーを高めていった。それが結果として、多くのユーザーが気軽に参加し、長時間滞在するサービスへと成長することにつながったようだ。
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