2006年5月17日 17時35分
加藤さこ
今注目のベンチャー経営者や業界を後押しするキーパーソンが登場し、起業経験をはじめとした生の声を紹介するCNET Business Baseセミナー。4月24日に開催した第1回目のセミナーには、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の1つである「GREE」を運営するグリー代表取締役社長の田中良和氏が「ネットベンチャーの起業と成長戦略」について講演。自身の体験を交えながら、インターネットビジネスの今を語った。
セミナー第2部では、グリーに投資しているグロービス・キャピタル・パートナーズ パートナーの小林雅氏が登場。田中氏を交えてトークセッションを行った。また、トークセッション後には、セミナー参加者による質問コーナーが設けられ、会場内は熱気に包まれた。
田中氏の講演では、グリーのサービスや組織について紹介され、起業までの経緯や会社の成長戦略についての詳細が語られた。GREEは、田中氏個人の趣味としてサービスを開始。まだ日本ではあまり例の少ないことだが、欧米では個人がサービスを作って法人化するのはよくあることだという。
「学生のころから趣味でホームページを作ってバナー広告を出したり、メーリングリストや掲示板の運営をしたりしてきました。GREEを始めた2年ほど前は、コミュニティサービスを趣味としてやるにはいいが、日本でブログやSNSが流行るかどうかはわからないという状況でした。自分の勤める会社でSNSを始めるには、会社側に収益性を説明しなければなりません。当時の私は、それが説明できなかった。が、必要とされている感覚はあった。それならば、とにかく形にしてみてから考えよう、というのがそもそもの始まりでした」
グリー代表取締役社長の田中良和氏
個人の趣味としてはじめたGREEは、公開してから10カ月ほどで10万人ほどのユーザーを獲得するに至った。それにともなって、問い合わせメールなども集中し、利用者に対する社会的責任も発生。次第に個人運営の限界を感じるようになったという。
「利用者から、『GREEは田中さんが主になってやっているそうですが、田中さんが死んだらどうなるんですか?』という縁起でもないメールを何通かもらいました(笑)。無料なんだから俺の勝手じゃないかと突っぱねることもできますが、世の中の人に求められているのなら、きちんとした受け皿を用意しなければという思いが強かった。これがGREEを法人にした経緯です」
GREEを法人化する際、田中氏が勤めていた楽天での経験も大きく影響した。田中氏にはもともと会社を作ってみたいという思いがあり、楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏との関わりの中から学んだことが起業への出発点となった。
「私はまだ楽天が50人くらいの社員の規模だったときに入社しました。当時は三木谷さんと接する機会も多く、直接、話をしていく中で感じたのは、自分が将来、どうすべきかを考えたときに2つの選択があるということ。楽天の三木谷さんが凄い人だから彼に従って付いて行くのが1つ。もう1つは、三木谷さんが凄いから、自分も三木谷さんのようになれるように一歩一歩近づいていくこと。私は後者を選んだわけです」
田中氏は、楽天での地位を上り詰めるよりも、ゼロから何かを成し遂げたいという気持ちを強く持っていたという。ベンチャーを起業した大学時代からの知り合いなどの同年代の起業家と楽天での自分の立ち位置の違いを感じたことも、起業を後押しする要因となった。
「現在では世間によく知られている、はてな、ミクシィ、ドリコムなども、当時は始まったばかりの小さなベンチャーでした。名前も知られておらず、サービスもよく理解されていない。今のグリーのように、あの会社は大丈夫なのかというのが、その頃の世間一般の評価です。でも、成功するか失敗するかはわからないが、ゼロから何かを成し遂げた人への共感の方が私は強かった。大企業の中で地位を上り詰めようとしている人と、起業家として何かを成し遂げてきた人とは、善悪はないですが世界観が違います。その違いを感じたとき、自分がそもそもインターネット業界を仕事に選んだのは、大企業の中で成功するより、未知なる可能性に取り組んでみたいと思っていたことを思い出しました」
現在、グリーは社員21名、インターン11名ほどの人員で会社を運営している。経営陣のほとんどは20代後半と若く、社員の平均年齢は25歳。田中氏は、若い社員で会社が構成されているという点が多くのベンチャーの特徴となっているということを指摘した。
「三木谷さんがハーバードに留学したのが26歳、楽天の最年少創業メンバーで、現在取締役を務める小林(正忠)さんが楽天に参画したのが25歳。自分も25歳になって、何かやらなければという気持ちを持っていました。会社を作りたいと思っていたときに、趣味としてGREEというサービスを思いついて、実際に始めてみた。それが世間から求められているのなら、これを母体として起業という道を取るべきだと決心しました。他社のケースも見ていると、1つの成功パターンとして、インターネットを理解している23〜25歳くらいの若者を、20代後半の人間がマネージメントしていくという形態がベンチャーを成長させる鍵となっていると思います」
次に会社の成長戦略についての話題に移った。起業するにあたって、田中氏はサービスを提供するためには、テクノロジーが重要だと考えていた。
「一定以上の規模の高度なサービスを作っていくのなら、高い技術力をもって、いかにコストを抑えるかが重要なポイントとなってきます。オープンソースを駆使して低コストで、安定したインフラを作るには、高度なテクノロジーが必要なのです。また、早くサービスを改善していくことが何より重要ですが、そのためにも、それを支える高い技術に基づいたフレームワークがなければ実現しません。良いサービスは、技術力が高くなければ作れないというのは、あまり知られていないことではないでしょうか。すばらしいサービスを開発するには、アイデアを実現できるテクノロジーを持つことが何より重要です」
企業が成長していくには、独自のテクノロジーを持たなければならないという危機感を持つことが必要だと力説。さらに、田中氏は自社での経験に基づき、成長するために新たなサービスを作りたいと思ったときに、すぐに取り掛かれるように、技術的インフラ整備に注力していくことの重要さを説いた。また、グリーの今後の戦略について、田中氏は次のように語った。
「現在は『グリーといえば、SNS』と多くの人に思われています。しかし、グリーはSNSにとどまらず、次世代のメディアを作っていくインターネットの会社でありたいのです。SNSというサービスも、いずれ普及すれば既存のサービスと同じ道を辿ることになるでしょう。10年前の最新サービスといえば、ホームページでした。5年前はメルマガやMLでした。これらは、今ではありふれた存在です。ブログもSNSもそれと同じ。どんどん普及し、一般化していく存在です。ユーザー、技術も進歩していく。だからこそ、常に新しいものを生み出し続けなければ行けない。『今、なにをしているか』だけでなく、『これから何を生み出せるのか』に注力してます。ネットビジネスの成長戦略は、ほんの3年、5年でとらえてはいけない。5年、10年、そしてもっと先の将来まで見据えていく必要があります」
田中氏はこの講演の中で、グリーが、次に注目しているのはキャリア、人材系サービスだと語った。この分野にWeb 2.0の要素を盛り込んだサービスを考えているという。グリーでは、求人情報の横断検索やQ&A機能を備えたキャリアサイト「GREE!キャリア」を3月よりサービス開始している。
今までもあった手法をいかに組み合わせ新しいものを作り出すか、それが今後の成長戦略のテーマになっていくと結び、講演は終了した。
セミナー第2部では、田中氏と投資者であるグロービス・キャピタル・パートナーズの小林雅氏が登場し、CNET Japan編集長の西田隆一の進行によるトークセッション形式で、グロービス・キャピタル・パートナーズが投資に至った理由、投資家としての役割とパートナーとしてのあり方を語った。
グロービス・キャピタル・パートナーズの小林雅氏
西田 グリーに出資しようと思った理由は?
小林氏 投資においては、経営チームが重要です。グリーという会社の可能性、将来性を感じて決めました。
西田 2004年頃から、投資家もインターネット業界への出資に積極的になっていましたが、田中さんが小林さんからの投資を受けることを決めた理由は?
田中氏 増資することを決めてから、5社ほどに話を聞きに行きました。投資家を選ぶ上で重視したのは、一緒に働いているチームだと思えること。一緒に成長を楽しめる人を選びたかった。それには小林さんがパートナーとして最適だったわけです。また、最終意思決定をするときに、サラリーマン的に「上司に聞いてみる」というのではなく、会社の意志決定に直結している人と組みたかったという点でも、小林さんが一番理想的でした。
西田 投資家の役割とは何でしょうか?
小林氏 ベンチャーキャピタルは、投資家にリターンを返さなければならない。そのためには投資先を見極める力と、その会社を伸ばす力が重要です。より伸びる会社を作れるように、経営者のサポートをすることが私の役割です。投資するかを見極めるときには、GREEが使っているオープンソースベースのアーキテクチャを他社と比べて、どこが優れているかという検証もしました。他社と比較して今後の戦略の方向性や、強化するポイントがわかってきます。
そして投資後、その部分をサポートしていくというわけです。田中さんに対しては、伸び伸びやってもらうのがいいので、あまり指示はしなくて、困ったときにサポートするという形を取っています。人の採用について間違いがないという点でも、田中さんに経営を任せて大丈夫だという安心感がありました。
西田 田中さんに質問します。小林さんがいてよかったと思うのは?
田中氏 人事評価制度を作る際に協力してもらって助かっています。ただし、一番は、小林さんががんばっているのをみて、がんばろうと思えることです。小林さんを見ていると学べる点がたくさんあります。
小林氏がグリーに投資を決めた際には、良い人材に恵まれているか、チームとして一緒に成長していけるかということが鍵となっていた。ベンチャー企業にとって、より良い人材を確保することの重要性が浮き彫りにされた。
セミナーの最後には、参加者が田中氏と小林氏に直接質問を投げかけるセッションも開かれた。積極的な参加者が多く、質問数もかなりの数にのぼった。
田中氏 楽天では常に新しいサービスの立ち上げや、先進的な分野にかかわっていたので、そういう意味で会社にはまったく不満がなく、その点では辞めにくいと思いました。しかし、自分で会社をつくっていきたいことを伝えると、意外なほど多くの人が「それがいい」「そうすると思っていた」と言って受け入れてくれました。
小林氏 一般的に会社を辞めるのは大変です。会社にとって大事な時期に伝えて、上司が口も聞いてくれなくなったという人もいます。辞め方は重要です。起業する1年くらい前に言うのがいいでしょう。ベンチャー企業ならば「上場してから辞めてくれ」と引きとめられるかもしれません。会社の対応で自分の実力が分かります。「あと半年、1年がんばってくれ」といわれる人間になってください。
田中氏 運の要素も過分にあります。恋愛も全人類の女性の中から序列を付けて最適な選択に基づいて知り合うなんてことはないですよね(笑)。ただ、運を高める行為は存在していて、どうやって高めていけるかに注目していくことが大切なんです。たとえば、いつの時代にも熱い人が集まる場所はあります。マニアックな場所にいる人、優秀な人、変わっているけどおもしろそうな人が、どういうことに着目しているのか。人脈を広げるには、そこに足を踏み入れていくことが大事です。
小林氏 運も実力のうちです。インターネット業界では誰と仲がいいかが重要になってきます。上司や友達など紹介する人のレベルでその人がわかります。同じ志を持った人を集めるのが重要ですね。また、自分自身が憧れられる人になることも大切です。人としての魅力をしっかり磨いて、すごいと思う人、異常に友達のいる人、頭の回転が速い人など、たくさんの人と出会ってください。
田中氏 グリーでは今のところ望ましくない人材はいないので幸運ですが……。私は面接をする人には、もし仕事ができなくても、仕事を教えたいと思える人を採用するように言っています。少しくらい仕事ができなくても、その人を育てていきたいと思うことができれば、パフォーマンスも上がります。また、どうしてもだめな場合の話をつけるのも採用する人の仕事です。
小林氏 採用時に、その人の能力と価値観を見極めることが大事です。価値観が合わないと派閥ができてしまう。政治的なことに経営者としての力を割かれてしまいます。能力ばかりでなく、その人の価値観を重視すべきです。当社では、経営者として言いにくいことでも、投資家の立場から解雇した方がいいというアドバイスをしています
田中氏 最近は大学の掲示板に求人票を張ってもらったり、友達に紹介を頼んだりしています。でも、本質的にはインターンが自ら働きたいと集まってくる会社にしなければいけませんね。給与については、社員と変わらないくらいのパフォーマンスを期待できれば、社員並みの待遇を用意します。インターンかどうかではなく、パフォーマンスによって給与を変えています。
小林氏 基本的には広告です。ユーザーの許諾を得て広告を配信するオプトインや、売上の一部を支払うアフィリエイト、サイトの内容に合った広告を表示するGoogleのAdSenseなど、手法自体は変化していますが、広告が基本というところでは変わりません。それ以外では、ユーザー課金があります。
田中氏 インターネット業界における収益モデルは広告、EC、ユーザー課金、ASP、トランザクション課金などに実は絞られています。最近では募金で集めるという新しい手法もあるようですが…。オープンソースブラウザのFirefoxがそうですね。「世の中に必要なものを作る」といって一般の人に出資を呼びかけるという方法が出てきています。
田中氏 信頼性が高いという点は当然ですが、ユーザーにとって最適なサービスを作っていくことだと思います。他社と比較するのではなく、ユーザーニーズに応えることに注力していくことが大切です。
小林氏 「ヤフーとグーグル、どっちが好きですか」というのと同じです。イメージによって微妙な好き嫌いはあると思います。インターネットの世界では選択肢があるというのは重要ですからね。
田中氏 既存のメディアは意識してます。テレビ広告の市場がインターネット広告に変わったらすごいと思うし、連携したり超えていきたいというのが本音です(笑)
小林氏 オムロンの創業者を知っていますか? 50代で会社を立ち上げました。年齢は関係ないですよ。以前は会社を作るのに最低1000万円はかかりました。でも、今は1円から始められる。年齢に関係なく、誰でも作れるんです。
田中氏 私の知り合いには、17歳で起業した人もいます。何もないところからビジネスを作る人はいるんですよ。
田中氏 朝9時半から夜まで働いていますね。土日もミーティングやイベントがあるので、あまり休みはありません。仕事自体を楽しむというのは大前提です。せっかくやっているのだから、全力を傾けています。仕事を楽しめる能力が大事だと思います。
社員に対しての期待ですが、価値観は人それぞれだと思うので、強制することはありません。ただ、若い時期に何かを達成するという経験しておくといいと思います。仕事、プライベートの境目を作らずに、自分なりに目標を作っていけばいいんじゃないかと思っています。
田中氏 良いサービスを作ったら、ひとりでも多くの人に使ってもらいたい。そのためには多くの優秀なスタッフを集めて会社としても成長していかなければいけません。資金が必要なら増資もしていく。会社として小さくまとまるのを奨励しているわけではありません。方向性を見極めながら、いろいろ考えて実行しています。それが適時、サービスとして現れていくでしょう。
成長には、連続的なものと、非連続的なものがあります。いわゆるコンサルティング会社が考える成長は、主に連続的なものでしょう。非連続なものとは、計算できない部分です。たとえば、ある学生が「最先端企業のアップルコンピュータに就職したい」と言っていましたが、5年前ならば、Windowsが全盛の時代に存在する意味があるのかと言われたほどでした。iPodを思いついた人がいたから、憧れられるような最先端企業に返り咲いたわけです。iPodをヒットさせるのは、計算だけでできることではありません。私がGREEを作ったのも、たまたま思いついたからです。
このように、それまでのビジネスとは違う非連続的なサービスや製品によって、大きく成長するフェイズがある。それは会社が存続しているからこそ、できることです。連続的成長に甘んじず、成功するまで続けるという信念を持ち、非連続なものを生み出すことにも力を注ぐことが重要です。
小林氏 グーグルがなぜ強いかというと、AdSenseで儲かっているからなんです。インターネットバブルで消えていった会社は、もともと赤字だったところが多い。資金が不足するリスクを下げて、自由闊達(かったつ)な雰囲気を作っていくためには、売上を伸ばすか、コストを減らして競争力や体力を付けていくことが大切です。
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