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 日本人学生エンジニアが「いい技術とは何か」を軸に討論する座談会(西川氏は2007年3月に卒業)。前編では技術と経営、エンジニアの社会的地位などに言及した。後編では主題となる「いい技術の本質」、脆弱と指摘される日本のIT業界、いいエンジニアを育てるための教育を中心に激論が展開された。

「76世代」などとは違う新たな流れ

佐俣:西川さんみたいにすごい技術力を持った人が経営もしっかりできるのが理想だと思いますが、現実的には文系の人が経営のトップに立ったりしますよね。どうすればいいんでしょう。技術系の人が経営を学ぶのか、文系の人に技術を学んでもらうのか。

大倉:たとえばお花屋さんチェーンの社長は、商売に詳しい文系の人がなるのが当然だと思います。でも、技術を売りにしている企業だったら自分の会社の技術をちゃんと理解できる経営者こそ、その技術を活かせると思います。

 今までの技術者が自分たちは経営に携わることなんてないと思って経営の勉強をしなかったのか、あるいは会社側が経営者候補として技術者を見てこなかったのか、それは分からないです。でも、技術系の企業なら技術者が経営も学んで経営者になるというのが自然だと思います。

佐俣:大倉さんも将来的には経営の方へ行く可能性はあるんですか?

西川氏 「ITという言葉の意味は広いです。ところがコンピュータを使うものはみんなITと呼ばれて、検索連動型の広告もITですからね。それぞれが違う資質を持っているのに、みんなまとめてITで語ろうとするのはムリがあると思います」(プリファードインフラストラクチャー代表の西川徹氏)

大倉:将来的にはそうなりたいと思っています。自分で起業するかどうかは別にして、エンジニアに固執するつもりはないです。

 先ほどの西川さんの話に近いですが、手段は選ぶけれども目的を達成することが何よりも大事だと思っています。マネジメントや経営を学んで、自分と同じかそれ以上の技術力をもった部下を持てる立場になれたら、自分はマネジメントをする側にまわって目標の実現に向けて進んでいきたいです。

原田:大倉さんのやり方は比較的昔からあるタイプで、西川さんが新人類なのかな。カルロス・ゴーンもミシュランに入って、社長や会長をやって、車のことも経営のことも学んで、それから日産に出向して立て直す、という道を通ってきたらしいけど、それって大倉さんのスタイルに近いと思う。

 西川さんはその途中の社会経験の部分を飛ばしているので、今までになかったケースかもしれませんよね。ITバブルに端を発した2000年前後の起業ブームとか関係なく、そういうことが技術の分野でも可能になってきたんじゃないでしょうか。第3世代とはまったく違う波が来てるような印象もありますね。第3世代はサービスで、この波は技術ですから、一緒ではないような気がします。

西川:マイクロソフトもアップルもそうでしょうから、昔からあったとも思いますけどね。

原田:いや、やっぱり出てくる例は外国のケースばかりで、日本ではなかったんじゃないかとおもいます。詳しく調べたわけではないですが…。

大倉:日本にはあまり例がないと言っても、シリコンバレーには世界中の優秀な技術者が流れ込んでいるわけですから、単に人数の問題なのかもしれません。

技術が分からない経営者でどうする

佐俣:優秀な人が多ければ当然生まれてくるだろうということですね。

大倉:はい。しかも、優秀な人に出会ったから何かが起きるというケースも考えると、人数の二乗に比例するかもしれませんから、そうなると益々比率は違って来ますよね。

 日本の法制度なども関係してるとは思いますが、シリコンバレーはそもそも優秀な人たちが世界中からたくさん集まってくるから何かが起きているのかな、と思っています。

佐俣:なるほど。西川さんも優秀なメンバーに出会ったのは大きいんですよね。

西川:そうですね。逆に言うと、人と出会ってなければ会社は作っていないと思います。やっぱり最初に一緒にスタートできる仲間を見つけるのが重要だと思います。

 でも、日本でもプログラミングコンテストなどで出会う機会はありますし、今はインターネットがあるんだから、日本もアメリカも関係なく、チャットとかで気が合ったら起業するというのもアリなんじゃないですかね。そこにも国境はなくなっていくと思います。

佐俣:西川さんのような人も技術者と経営者の卵がうまく出会うキッカケがあれば自然発生的に生まれていくんでしょうか。それは必ずしも会社設立を前提としたものでなくてもいいとは思いますが…。

大倉:エンジニア同士が何人か集まって何かを作るようなケースは無尽蔵にあるので、それを会社という形にする理由があるかどうかどうかでしょうか。何人か集まって何か作るだけだったら会社にする必要はないわけですから。

原田:好きでプログラミングをしているような人は、それがお金になることを知らなかったり、知っていても資本を持っている人とマッチングしなかったりしてるように感じますね。そのあたりが解消されるだけでもそういう若い人が世に出てくるキッカケにはなるような気がします。

佐俣:どうすればそれは解消できるんでしょうか。

原田:VCに関しては佐俣さんの方が詳しいと思いますが、やはりベンチャーキャピタリストの方もどこに行けばそういう若い人と会えるのかという悩みはあるらしいです。VCも学生も、両方探し求めているのにうまく会えないというジレンマはあるんじゃないでしょうか。

佐俣:そうですね。その壁はありますね。でも、最近はずいぶんなくなってきてるような気もします。経営者と学生が飲んだりする場もあったりするので、それこそ確立論で、そういう場が増えればいつか何かが生まれる感じもしますね。

大倉:僕は単に経営者とエンジニアをくっつければいいという話ではないと思うんです。先ほども言ったようにエンジニアの中からマネジメントできる人材を輩出していかないとうまくいかないことは多いと思うので。

 未踏ソフトウェア創造事業などがそれなりにうまくいっているのは、エンジニアに直接お金を出すからだと思います。その結果、未踏関連では新しいものが生まれる比率が高句なっているのではないかと思います。

 技術は全く分からないけれど、技術を売りにする企業の経営はできる人というのは少ないと思います。技術を分かっている人に経営を付加するというアプローチが必要じゃないでしょうか。

佐俣:先ほども少し話に出た、技術を商品として売っているなら技術を学んでいる人がマネジメントをしないとダメということですよね。

西川:ただ、ITという言葉に関しては、その意味が広すぎる感じはしますね。コンピュータを使うものはみんなITと呼ばれて、検索連動型の広告もITですからね。それぞれが違う資質を持っているのに、みんなまとめてITで語ろうとするのはムリがあると思います。

 検索連動型広告の分野に関してなら広告に詳しい人が必要でしょうし、我々の会社のように検索エンジンのコア技術を売っているところは技術が分からないとダメだし…。世の中でのITという言葉の使われ方には疑問を感じますね。

「日本のIT技術は元気だぞ」

佐俣:ソフトバンクの孫さんやライブドアのホリエモンなど、比較的キャラの濃い人たちがIT業界を注目させた功績は大きいと思いますが、一方で彼らが急に注目されたことで、サービスと技術をごちゃ混ぜに考えてしまうような、IT全体をよく分からないものにしてしまった気もするんですが…。

原田:最初からよく分からないものだったわけではなく、ITがものすごい勢いで進化しているので、その進化に世の中の理解が追いついていないところに歪みが発生してるんじゃないでしょうか。

大倉氏 「先生から学ぶというだけではなかなか優秀なエンジニアは育たないと思います。トップのエンジニアは芸術家みたいなものだと思っています。まわりに面白い人がたくさんいて、その中で刺激を受けながら自分の感性や技術を磨いていくのが大切なんじゃないでしょうか」(東京大学大学院の大倉務氏)

大倉:IT業界という言葉はちょっと変だと思います。普通は化粧品など商品に対して業界という言葉を付けますが、ITはその仕組みの方に業界を付けて呼んでいます。用語を普及させる時に何かずれてしまったのかもしれません。

佐俣:日本の技術に元気がない、オリジナリティがないという意見もあるようですが、それに関してはどう思いますか?

原田:技術を加工してサービスとして出すという意味だったら車などの例もありますし、オリジナリティのなさを気にすることはないと思います。元気があるかないかで言えば、元気はあると思いますよ。

大倉:日本発のオープンソースソフトで世界で使われているものはたくさんあるので、そういう意味では「日本のIT技術も元気だぞ」と言っていいと思います。

 ただ、サービスに元気がないというのは同意します。やはり海外の真似をしてるサービスが多い印象があるので。そういう海外の真似をするのも悪くない、日本らしい、という意見もあると思いますが、個人的にはあまりうれしくないです。これまで日本がそうやって成長してきたのは分かるし、ビジネスの戦略としてそれが間違っているとも思わないですが、やっぱりうれしくない。

佐俣:そこはエンジニアとしてのプライド、もしくは技術開発する上でのモチベーションの問題なんですかね?

大倉:世界の誰かがやってしまったことは、少なくとも人類に可能だということは分かっているわけで、不可能への挑戦という意義はなくなりますよね。それを考えると、エンジニアとしては是非全く新しいものを作りたいという気持ちはあります。

西川:サービスはITの中の一部分でしかないと思っているので、そのサービスだけを見て元気がないと言われてもどうなんだろうという気はします。

 ただ、そのサービスが正しいものを出せていないのは技術の空洞化が原因でもあると思うので、我々はその技術部分の穴を埋めて、サービスを強くしたいと思っています。

 今も検索エンジンという技術的な部分を作って、サービスを求める人たちのニーズを受け取りながらくっつける作業をしてるので、そういうことをしていけばサービスも活性化してオリジナリティが出せるんじゃないかと思います。要するに、技術がないなら僕らが埋めてあげるというのが会社の方針ですからね。

原田:大倉さんの話を聞いていて思ったけど、真似が真似で終わってるからダメなんでしょう。Webサイトなどを見ても日本の方がセンスがあったりするケースは多いので、二次利用のクリエイティブ能力は高いと思うんですよ。

 そういう部分を進化させて、たとえばブログを輸入するだけじゃなく、ユーザーインターフェイスを洗練させて逆輸入させるくらいの付加価値が出せれば、サービスも元気があると言われるんじゃないでしょうか。

より高い価値と新しい概念

佐俣:ちなみに良い技術というのはいろいろな側面があると思いますが、具体的にはどんな技術だと思いますか?

西川:価値が与えられないと技術としては意味がないので、どれだけ高い価値を与えられたかということだと思います。我々は技術者として、たとえばコスト的なもの、機能的なものなど、いろいろな面を追求していくわけですが、そういうことを総合的に考えてどれだけ高い価値を相手に提供できるかどうか、それが良い技術だと思います。

原田:基本的にはやはり価値の話になると思いますが、その技術を良いと判断する人に対して、どれだけ新しい概念をインストールしてあげられるかどうかが基準になると思います。

 研究者から見れば今まで世の中にはなかった技術が良い技術になると思いますし、サービスを使う人から見れば、ユーザーとして新しいことが経験できるものが良い技術になると思います。そういう概念的に新しいものが良い技術なんじゃないでしょうか。

大倉:僕もより高い価値を生み出せるものだと思います。ただ、その技術にも種類があって、たとえば電話のような技術は遠くにいる人と話せるという技術でしたが、そのことによって世の中の進むスピードは一気に上がりましたよね。電話によって派生された技術はたくさんあると思います。電話がなければ今の時代にはまだPCはなかったかもしれませんしね。こんな風に、より派生的にたくさんのものを生み出せる技術ほど良い技術なんじゃないかと思っています。

佐俣:最近の日本の技術は元気がないと言われつつも、みなさんのように技術を分かっている方々が少しずつ出てきているのは事実ですよね。

西川:そういう人たちはずっといるので、増えてもいないし減ってもいないんじゃないでしょうか。ITという言葉が一人歩きして、誤解されたり、悪い面ばかりが取り上げられたりしたこともあるでしょうが、技術者たちはずっと開発を続けていたと思いますよ。

原田:世に出られるハードルは下がってる気はしますね。少ない資本で会社も作れますし、学生で起業するとマスコミが取り上げてくれたりするので(笑)。後押しする環境はあると思います。

優秀なエンジニアの育て方

佐俣:エンジニアが世の中に出てくる、育ってくるという意味では、教育の問題もあると思います。現在、大学に通っている立場、あるいは最近まで大学に通っていた立場として、教育に関して何か思うところはありますか?

大倉:日本の教育で一番問題なのは、先生が親切に教えてくれる、教えるべきだと思っている風土だと思います。

 トップのエンジニアは芸術家みたいなものだと思っています。まわりに面白い人がたくさんいて、その中で刺激を受けながら自分の感性や技術を磨いていくのが大切なんじゃないでしょうか。

 でも、最近の日本の学校は、東大でさえ先生はきちんと授業をしなさいという方向になってしまい、時間的な余裕がなくて、友達との共同作業を通じて刺激を受ける機会などないという人の話も聞きます。先生から学ぶというだけではなかなか優秀なエンジニアは育たないと思います。

原田氏 「Webサイトなどを見ても日本の方がセンスがあったりするケースは多い。二次利用のクリエイティブ能力は高いと思うんですよ。そういう部分を進化させて、ユーザーインターフェイスを洗練させて付加価値が出せれば、日本のサービスも元気があると言われるんじゃないでしょうか」(東京大学の原田惇氏)

原田:確かに時間的な余裕はもっとあった方がいいですね。自分の興味があることを勉強したいと思っても、学校の拘束時間が長くてできないこともあります。一方で、出席だけすれ単位が取れるという授業もあり、自分の興味とは関係なく単位を取るためだけに時間を使う人がいる、そこが問題かもしれません。

 大学は先端的でおもしろいことをやっているはずなので、授業でそれを効率的に学べればいいのですが、そこに教える側と学ぶ側のミスマッチが起きているという非効率な側面があると思います。

西川:全体的な底上げという意味では丁寧に授業をしないといけないと思いますが、僕も優秀なエンジニアを育てるつもりなら時間的な余裕を与えてあげないとダメかなと思います。

佐俣:大学でゆとりのある教育ができたとして、高校まではどうなんでしょう。きっちりとカリキュラムがあって、試験科目に沿って勉強してきた人が、大学で急に変われるものなんでしょうか。

大倉:高校と大学の間に特に境はないと思います。僕も西川さんと同じように中学生の頃からフリーソフトを作って公開したりしてました。

 ですから、中学や高校の時から自分で興味があることを勉強するのがいいんじゃないかと思います。もしかしたら、自分の興味があることを自分でどんどん勉強しなさいと教えていないことが、教育上の一番の問題かもしれないです。

佐俣:では最後にみなさんにお伺いします。今後はどうしていきたいですか?

西川:我々の会社では世界を変えられる技術をずっと探し続けていますが、それを見つけて、いつかコンピュータで世界を変えたいと思います。その目標に向けて今後もやっていきたいと思います。

大倉:直近は自分の手を動かすことになると思いますが、自分が直接でなくても、人類が情報をより良く活用できるようになるために努力していきたいと思います。どこの会社に所属するとか、起業するとかにこだわりはなく、常に自分の目標に対して最適な環境に身を置いていきたいと思っています。

原田:今までの経営論では技術を中心として扱うことが難しいと思うので、リスクのある技術開発というファクターを含んだ会社経営を考えつつ、自分でも技術を開発していきたいと思います。3年後か5年後か分かりませんけど、それくらいに起業できたらいいですね。IPOにはこだわらず、その会社が継続的に技術開発を続けてやっていけたら理想ですね。

会場風景