2008年4月23日 11時19分
光安竜也
国内のベンチャーキャピタル(VC)に危機感を抱く、国内では異質な存在のベンチャーキャピタリスト。同じく国内VCに疑問を持つ、米国帰りで熟練のITベンチャー企業経営者──。
2人は出会い、本音でぶつかり合い、結果、大規模投資をして世界規模の成功を目指す「穴を掘る(創業段階、技術開発段階もしくは商品及びサービス開発段階に必要な資本で深く踏み込み、越えていき、成長する事業化につなげていくこと。デスバレーとも呼ばれる)」ベンチャー企業を創造する決意を交わし合った。リード・キャピタル・マネジメント マネージングパートナーの谷本徹氏、リプレックス最高経営責任者(CEO)の直野典彦氏の2人だ。
「日本のITはなぜ駄目なのか」「日本のVCはなぜサラリーマン的なのか」などの国内IT業界の大きな悩みに対し、正面から“日本流”を否定して突き進んでいく両者。2人の出会いと関係性の構築、そしてITおよびVCに対する深い洞察と哲学は、どのような背景で育まれていったのか──。IBM Venture Capital Groupの勝屋久が迫る。
勝屋氏:まずは谷本さんが所属する日興アントファクトリーとリード・キャピタル・マネジメントについて、その概要と関係性を教えて下さい。
リード・キャピタル・マネジメント マネージングパートナーの谷本徹氏
谷本氏:リード・キャピタル・マネジメントという名前は、業界をリードして新しい産業を創出している会社に投資していくという意味でリードという名前をつけました。
日興アントファクトリーとの関係についてですが、日興アントファクトリーの投資は、映画館や中古車オークションなど、キャッシュフローを生んでいる中堅企業へのPE投資が中心、ベンチャーキャピタルの本来の投資先としては少しイメージが違っています。そのため、別ブランドとしてリード・キャピタル・マネジメントを設立した次第です。
勝屋氏:谷本さんの部署の人員数と運用ファンド規模、また重点投資分野について教えて下さい。
谷本氏:投資担当者は現在12人です。フラッグシップファンドはリードシリーズで1号が153億円です。リード2号プラスアルファが数十億から100億円規模のファンドを組成しようとしております。他にも過去のファンドがあるので、それらを合算すると400億円を超えるファンドをマネジメントしております。
エレクトロニクス、ネット系にモバイルコンテンツを加えたもの、バイオヘルスケア、金融系や人材派遣といったその他サービスでそれぞれ4分の1ずつです。
ただ、エレクトロニクス・バイオヘルスケアの比率が高いので、今後は減っていくと思います。その分、産業にかかわらずバイアウト的なものが増えると思っております。
勝屋氏:リプレックスとはどのような会社なのですか。
リプレックスCEOの直野典彦氏
直野氏:リプレックスは一言で言うとソフトウェア会社で、クライアント・アプリケーションの開発を主に行って、世界中に提供しているベンチャー企業です。これだけウェブサービス系の企業が多い中、時勢に逆らっているとよく言われております(笑)。
我々の持つ他社が真似できないユニークな技術の核は検索技術です。
今の主力サービスとなるアドレス帳「Ripplex」をクラアントアプリケーションの形で提供しており、一番の特長としてはネットワーク上の人の探し方にあります。特に、mixiやSkypeなどで友人を探す時に効力を発揮するわけです。
一般的な探し方ですと、自分が探せるということは、他のユーザーからも探せてしまうということがあります。しかし、我々のアプリケーションは人同士のみの繋がり、すなわち自分がリアルで知っている人たちであり、アドレス帳に入っている人だけを探しに行くんです。
ただ、それだけでは公開したくないがコミュニケーションを持ちたい人には不満です。そこでRipplexのネットワーク上では知っている人同士でのみ探せる、つまり自分の情報を公開せずに、すでに知っている人同士の間だけで検索ができるという強みがあります。
もう少し具体的にお話します。勝屋さんが友人の情報をRipplexに登録するとします。その友人がRipplexを利用している場合には、情報がリンクされ、勝屋さんのアドレス帳に不足している情報が自動的に補完されるんです。ですから、勝屋さんが友人のメールアドレスだけを入力すると、mixi IDや電話番号とかさまざまな情報がどんどん補完されていくんです。
今申し上げたことを我々がユーザー情報に全く触れずにネットワークを構築できるという仕組みがユニークなテクノロジーなのです。
また、今はアドレス帳の形をとっていますが、今後リリースする新バージョンでは世界中の方々を驚かせる仕組みをご用意しておりますし、ネット上で話題に上がると思いますので楽しみにしていて下さい。
勝屋氏:なるほど。日本だけでなく世界を相手にしているサービスなわけですね。
直野氏: Windows版・Mac版、日本語版・英語版は必ず同時にリリースしております。当然、ホームぺージも日本語版・英語版は同時に更新しております。
今後、比較的大きな騒ぎになると申し上げたのは、誰でも知っている大手のサービス事業者2社と我々のジョイントプロモーションが始まるからです。2社とも国内の事業者ではなく、グローバルな事業者です。
大卒後、1986年にJAFCOに入社。1996年に海外投資課長として、US投資先の支援およびファンド組成を実行。1998年より、投資チームのヘッドとして国内投資に復帰し、USテイストの投資スタイルを持込み、2000年の新興市場の活況と相俟って、数社がIPOを果たし成功した。
2003年4月より、日興アントファクトリーの投資チームに参画。2006年10月に、VC投資グループを分離し、100%子会社のリード・キャピタル・マネージメントを設立し、代表取締役社長に就任した。
半導体・光通信部品といったエレクトロニクス分野からモバイルコンテンツプロバイダーまで、広義のIT分野を担当している。平均投資金額は、3〜5億円と投資先の集中と大型化を進め、リードキャピタル型投資を実践している。
投資先:上場したのはマネックス証券、バリューコマース、アジアメディアほか。現在はファイベスト、アイディ、DMP、ネットクリアスシステムズ、アプローズテクノロジーズ、リプレックス、BBMF、イーブックイニシアティブジャパン、サクセスネットワークスほか。
趣味:サッカー観戦(横浜Fマリノスのサポーター、ホームゲームは年間チケットでほぼ全試合観戦。ほかトヨタカップなど、日産スタジアムでの開催試合多数観戦)
佐島マリーナでヨット(不定期、年数回。2級小型船舶の免許保有。昨夏は安良里に行きました)
勝屋氏:グローバルな会社とアライアンスを結ぶこと自体難しいですし、日本で小さく収まりそうなことはせず、いきなり世界に打って出るというチャレンジ精神が素晴らしいですね。ちなみに直野さんはなぜ起業されようと思ったのでしょうか。
直野氏:私の経歴を簡単に申し上げますと、学校を出て8年間、日本の大手IT企業に所属しておりました。その後、シリコンバレーのベンチャー企業に入り、NASDAQ上場を経験し、その後は本社執行役員として成長に貢献しました。米国的な考え方ですが、その会社を9年やって自分でも十分な成果を上げることができたと思ったので、米Worldview Technology Partnersからお声がけいただいたのをきっかけに、同社のEIR制度(Entrepreneur In ResidenceとExecutive In Residenceという2つの意味を持つ略称、この場合は前者の客員起業制度の意)で秘書と部屋と給料をもらって、仕事を始めるまでは好きなことをしていていいが、仕事を始めたら優先的に投資を受けなければいけないという立場となりました。
勝屋氏:羨ましいお話ですね(笑)
直野氏:しかし、商売を始めるとなったら彼らに優先権があり、言い値ですからね。
その期間に面白い案件がなければやらないつもりだったのですが、アメリカと日本を行き来してさまざまな人と会っているうちに「人生をかけてもいい!」というアイデアが出てきたんです。
Worldview Technology Partnersとは彼らのファンドがうまく組成できなかったこともあり、EIRの契約は白紙に戻してもらったのですが、今回の商売のベースはEIRでお世話になった時期に作っていますので、彼らには個人で株主になっていただきました。
勝屋氏:なるほど、直野さんの起業のきっかけはそういうお話だったのですね。では、お2人の出会いのきっかけはなんだったのですか。
「私は器用じゃないので、常に本音を言ってしまい喧嘩をしてしまう。直野さんとも相当やり合いましたが、それを乗り越えると後が楽になるんですよ」
谷本氏:前の会社にいた時、直野さんのセミナーを聞いて興味があって個人的に会いに行ったんですよ。1998年ぐらいだったと思います。
直野さんは国内の大手IT企業でコンサルをやられて実績を上げたあと、米NASDAQ上場企業(当時)で特許戦略とビジネスモデルを明確にもって日本のビジネスを立ち上げていたんですね。ですから、お話が論理的かつで納得しやすかった。欠点といえば、個性が強い方だなと感じたことくらいですかね(笑)。
直野氏:リプレックスとの絡みでお話しすると、米国時代は残念ながら金を集めることが前提のビジネスモデルとなってしまっていたため、米国でお金集めをしようかどうしようか迷っていたんです。でも、米国のVCと日本のVCとでは動かせる資金も哲学にも大きな差がありますよね。
その時、ある人物から「日本のVCだって根性がない奴ばかりじゃない。ぜひ、谷本さんに会ってみて欲しい。谷本さんは他のVCとは違う」と言われたんです。では、ということで。
勝屋氏:それはいつの話ですか。
直野氏:2006年の年末に増資をする少し前ですから、2006年10月あたりだったと思います。
勝屋氏:最初にお会いしたときの印象はどうでしたか。
直野氏:根性があると聞いておりましたから、根性があると思いました(笑)。
優れた選球眼を持って、最終的には成功するが、当初はリスクを負って大規模な投資をするのが本来のVCの姿です。このことを我々は「穴を掘る」という表現をしています。正直、わたしは日本に「穴を掘る」ことができるVCはいないと思っていました。
だから最初に谷本さんにお会いしたとき、「日本のVCは穴を掘るのが嫌いなんでしょう?」と聞いたら、谷本さんは「穴を掘るのが嫌いなんじゃなくて、穴を掘る人がいないから困っているんだ」と返された。その通りだと思ったんですよ。
また、谷本さんは「資金需要があるところに資金を供給しないでどうする」というようなことを言うんですが、晴れの日に傘を差し出すのではなく、雨の日にこそ傘を供給することこそが使命、みたいな意味かな、と。あたりまえといえばあたりまえですが、これを徹底できている投資家っていうのは、私の日米含めてなかなかいないというのが現実です。
勝屋氏:なるほど、ではかなりの大金だったと思うのですが。
直野氏:ファーストラウンドで4億円でしたので、ソフトウェア開発としてはかなりの大金です。ただ、ビジネスモデル的には資金需要が高いです。確かに、日本ではかなり大きいという印象でしょうね。
修士(物理)取得後、日本の大手SIerを歴て、スタートアップだった頃の米国Rambus Inc.に入社。Nasdaq上場の後、米国本社副社長に。経営陣の一員として、ITバブルとその崩壊、エンロン、SOX施行などをくぐり抜けつつ、収益の面で会社を支え続けた。同社退社後、半年ほどの間米国の中堅VCである、Worldview Technology PartnersにEIR(Entrepreneur in Residence)として身を寄せ、現在のリプレックス設立の基本構想を練る。2006年3月にリプレックス株式会社設立、現在に至る。九州の半導体企業である株式会社NSCore顧問。
趣味:水泳
勝屋氏:谷本さんの選球眼についてお聞きしてもいいですか。
谷本氏:アーリーの場合は経営者を見なければいけないので、直野さんという経営者がいたから投資したというのが正直なところです。後は、技術的なとこで非常に大きな可能性を秘めていること。世界を変えるというと大げさですが、それだけのポテンシャルを秘めているし、特許などの経営管理面でも直野さんはプロなので、条件はそろっていましたから。
勝屋氏:谷本さんが直野さんに投資先を決めた時のエピソードを教えて下さい。
谷本氏:「僕のところでやるんですよね?」という前提でお話させていただき、その上で条件面を詰めていったので、直野さんからすると選択の余地はなかったかもしれませんね(笑)。ただ、その代わり「金は出します」とコミットしていましたので。
勝屋氏:谷本さんが投資を決めて1年以上経つわけですが、直野さんにとって谷本さんはどんな存在なのですか。
「私が投資家に期待することは適切に我々をクビにするということが、最大の役割だと思います。ゴールは私を守ることではなく、会社を守ることなのですから」
直野氏:お互いそうだと思いますが、期待してるのは「プロの目」です。現場を預かるわたしは現場を預かるプロとして、投資家の人たちにはできないことをやらなければいけない。
わたしの仕事は「絶対に抜けられない穴に絶対落とさない」ことだと思っています。
まだこの世に存在しないサービスを始めるとなると、参考にするものも比較対象もないため、山ほど間違いを犯します。間違いを犯しながらもフィードバックを行っていくのが重要なのですが、その中で「取り返しのつかない間違い」というものが存在します。
先ほど申し上げた「抜けられない穴」とはそういう意味なのですが、その危険回避は私だけではとてもカバーできません。その穴を投資家の経験上からの視点で「ここに穴があるよ、危ないよ」と谷本さんに指摘していただいたことがあります。それは現場の視点からでは分からないことだったんですよ。
我々技術サイドには失敗の経験というのが不足していると強く思います。いい悪いは別にして、失敗しまくっている人には投資をしないものですから。ただ、我々はまだ失敗の経験がないものですから、失敗の危険性を感じ取れないんです。その点をうまく補っていただいたと思っております。
谷本氏:そう言われるとかっこいいけど、起業に必要な社労士を紹介したりなど、何でもやらせていただいています。後はソフトウェアのテストやモニターもやりました。抵抗は特にないので、できることは何でもという感じですね。
勝屋氏:なるほど。やはり谷本さんのように投資経験が豊富な方だと、そうした危機回避という重要な場面でVCとしての役割を果たすこともできるのですね。ちなみに何社くらいに投資されたのですか。
谷本氏:100件はいかないですが、数十件はやっております。 VCは薄い案件を100件やるより、濃い案件を10件やる方がいい。その方が価値が高いと思っていますから。
直野さんの案件でいうと、お金を出すだけでもないし、そんなに口を出しすぎでもないと、自分は思っております。他のところでも、だんだん不安になってきたら意見を言いたくなってくるのですが、そこですぐに口を出してしまっては駄目。当然、間違ったことをしていれば修正しなければならないのですが、許容範囲であれば口はなるべく出さない方がいいんです。直野さんを含め、現場の経営者にはいかに気持ちよく仕事をしてもらえるかというところに腐心しないと。
直野氏:私は若干違う意見を持っています。確かに投資家があまりにも細かく指示をして会社が右往左往する自体は避けなければなりません。でも、誤解を恐れず強い言葉で言うと、私が投資家に期待することは適切に我々をクビにするということが、最大の役割だと思います。精神論的な側面が強いので、こういった表現は日本のVCは喜びませんが。
これは谷本さんがそうということではなく、VCの方には「10社持ってるから10分の1分かっていれば良い」ではなく、情報開示も徹底的にするので、我々の経営の内側をチェックして欲しい。また、私がいなくても他の執行側の人間と話ができる体制を作っていただきたいです。
ゴールは私を守ることではなく、会社を守ることなのですから。
勝屋氏:話を聞いていると、お2人は最初から波長が合っていたとは思うのですが、どんな感じで人間関係を構築されていったのですか。
谷本氏:私はあまり器用じゃないので、常に本音で言っています。だから、人間関係を作る前に、必ず喧嘩してしまう。直野さんとの時も相当やり合いましたよ(笑)。駆け引きは上手じゃないので、本音でぶつかるのですが、それを乗り越えると後が楽になりますし。
直野氏:しかし、ああいうやり取りはお互いにビジネス・バックグラウンドがあるからできるのであって、どちらかが素人でしたら成り立たないでしょう(笑)。
勝屋氏:素晴らしい関係を構築されているのが伝わってきます。ところで谷本さんは1986年からVCに携わってきて22年のキャリアがありますが、一番辛かったことはなんでしょうか。
谷本氏:辛かったことは当然、投資した会社がうまく行かずに倒産してしまった時ですよね。その経営者が前日に娘の学校の授業料も払えなくなるという話を聞いた翌日に、別の成功した経営者は、何十、何百億の資産家になっていたりします。そのギャップが資本主義ですが、その激しさに、精神状態がおかしくなりそうになったこともありました。
勝屋氏:では逆に、この仕事の楽しさとは何でしょうか。
谷本氏:楽しいのはやはり、「この経営者は!」「この会社は!」「このビジネスモデルは!」──と目をつけた会社がうまく世の中で認められるようになるところですね。
基本、VCという仕事は事業創造じゃないですか。新しい事業が創られるところに我々がどうかかわれるか、どうかかわって結果が出るか、という部分です。
また、事業創造に一番近いのは経営者なのかもしれませんが、経営者は何社もそれをできません。それがVCなら何社もできる。黒子としてコントロールするといいますか、プロデュースして成功に導いていく部分は、最大の喜びです。
勝屋氏:谷本さんと一緒に仕事がしたいと門を叩く人も多いと思いますが、どういう人となら仕事がしたいですか。それと投資の判断基準があったら教えて下さい。
谷本氏:男女や国籍・年齢は考慮しません。基本的に自分の考えをきっちりと持っている人ですね。投資案件ごとにちゃんと考えて分析できて、表現できる人に惹かれます。当社では、毎週投資会議が開催されるので、具体的な案件での議論を通じて、皆、成長していきます。
投資の判断基準ということであれば、それはケース・バイ・ケースとしか言えないですね。投資は複合的な要素で判断しますから、一概にこれとは言えないんです。
しかし、あえてその複合的な要素で重要なところを言うなら、1つ目は経営者の資質です。2つ目は技術的なものだったり、ビジネスのコアとなる要素にどれだけのポテンシャルを秘めていて、それが爆発できそうかという点です。
勝屋氏:直野さんは経営者としての楽しみは何だと考えていますか。
直野氏:手前味噌で恐縮ですが、うちの社員はとても優秀です。その優秀な彼らと議論して、今までにない新しいものを構築していると実感を持てるのは、何よりも楽しいことですね。
事業がうまく行くか行かないは運も左右します。しかし、それとは関係なく、尊敬できる優秀なスタッフと毎日仕事ができることは、それだけでも幸せなことだと思います。
当然、心配しないように役員会では毎回「シートベルトを締めるように」といい続けていますが。
勝屋氏:リード・キャピタル・マネジメントの目指す方向性を教えて下さい。
谷本氏:グローバルに通用する企業に投資すること、産業をリードする企業に投資すること、優秀な起業家への支援──。この3つをビジョンとしております。そして、運用結果を最大化してくのが我々のミッションだと思います。
できたら、さらに自分たちがもう一歩だけ事業にかかわっていきたいと思います。もちろん、やり過ぎない範囲で、ですが。
勝屋氏:今後もVCに携わっていくのでしょうか。
谷本氏:もちろんです。引退しろとみんなに言われても、絶対に辞めないと思います(笑)。
勝屋氏:VCとの付き合い方が分からないという人向けに、直野さんの視点でアドバイスできることはありますか。
直野氏:私自身がマネジメントで最も重要だと思っているのは、「私が分からないことを認識できること」だと思います。私がスーパーマンならいいのですが、当然、人は全能でありえるはずがない。そこで、分からないことが山ほどある中で、分からないことは他の人にやってもらえばいいということになるわけです。
でも問題なのが、「私が分からないことが分からない」状態に陥ってしまうことです。VCと我々の関係は、私が見えてない部分を指摘してくれ、キャッチボールできる関係が理想です。それができないVCが、「金は出すが何もしないVC」なのだと思います。
お互い不完全な人間同士が、それでも成果を出さなければならない。そのためには相互理解が不可欠で、才能・経験の持ち寄りで正解に近い答えに近づくべきだというのが私の見解です。そのためには、相互理解を深めるための地道なコミュニケーションが欠かせない。いきなりすごい答えを用意している経営者もいなければ、いきなりすごい答えを引き出してくれるVCだっているはずがないわけですから。
なので役員会の後の飲み会は、私にとって非常に重要な場です。谷本さん、いつも拉致してしまってすいません(笑)。
谷本氏:それと言葉は悪いですが、利用し合うということなんです。どこのVCがいいとかではなく、お互いの良いところを引き出しあえばよいのです。我々は常に最適解を議論して、求め続ける必要があるんです。
直野氏:それとね、“企業にとっての大惨事”はどうしたって起こるんです。その事態が引き起こされた時に、いかに固い結束で乗り切るかということです。
実は、日本のベンチャー企業の最大の問題は、「感情」にあるのではないかと最近思っています。創業者の権限が強すぎるきらいがあって、コントロールが利かなくなって喧嘩が起きてしまうと収集がつかない。私の少ない経験からは、そんなことを思ってしまいます。
谷本氏:企業にとって人間関係は重要。誰かと誰かが対立してしまったら、もうアウトなんです。人間の心は複雑ですので、修復したように見えても実は修復できていない場合も多い。生々しい話ですが、そういった事態に陥った場合は、最大限の権力を振りかざして、どちらかを切ってしまいます。それがVCである私の仕事だからです。
人間関係で混乱した後、それが円満に収まることもありますが、経験上、4割くらいはそういった事情で社長が変わってると思います。
でも、日本のVCは感情が阻害して社長交代にはおよび腰に見えます。役員派遣でさえそうです。「右へ倣え」の日本文化ですから、それが横行してしまうと、何もしないVCが増え続けてしまうことになってしまうのです。
勝屋氏:VCは人を大切にしながら、一方で会社の重要な場面では人を切るというのが根本になければならないわけですね。
直野氏:アメリカ的な手法ですけど、それこそが、我々のようなITベンチャーが望むVCの姿です。
以前より谷本氏のインタビューを行ってみたかった。それはベンチャーキャピタルとしてビジネス実績もあり、ベテランとして継続して、投資を続けるエネルギーそして多くの人から信頼されている谷本氏の人柄を深く知りたく、そこにはベンチャーキャピタルの本質があると感じていたからだ。
2時間近くの対談で、谷本氏のとりわけ印象的だった点はこの5つだった。
・誠実であること(かけひきをせずに正直であること)
・本気で目の前の相手とぶつかる姿勢
・鋭い洞察力をもつこと
・安心感があること(リスクテイクをしっかりとする)
・豊富な経験をベースにアドバイスができること
一方では日本のITベンチャー業界では谷本氏のようなアーリーステージのベンチャー投資において本気でむきあい、ぶつかっていくVCが少なくなっていることが最近の危惧する点である。
以前に日本ベンチャーキャピタルの照沼大氏より「VCはDream Enablerだ。黒子として起業家と一緒に、夢を実現するためのよきパートナーがVCである。」と聞いたことがある。そういった「Dream Enabler」の役割を担い、アーリーステージに特化した本気でぶつかるVCが日本で一人でも増えることを祈っている。
2006年5月よりはじまったこの取材コラム「経営者×ベンチャーキャピタリスト=無限の可能性」は日本で活躍する16人のVCそして12人のベンチャー経営者との本音トークに意識を集中して、その実態・真実そしてありきたりの質問だけではなく、その人の仕事のやり方・フィロソフィーを率直にお聞きしてきた(VCの本質は会社組織ではなくあくまでも個人なので)。
今回で最終回となるが、いままで予想以上に多くのベンチャー業界中心の皆さんにご覧いただき、驚きと喜びでいっぱいである。本当にありがとうございました!
たまにベンチャー経営者より、日本には優れたVCがいないとか、投資するだけでなにもやらないとか、VCは好きではないなど前向きでない意見を聞くことがある。私がいままで日本で800人近くのベンチャー投資に携わる人達と接点をもってきたが、取材に登場したVCの皆さんをはじめ素晴らしいVCは日本にも存在することは事実である。私はもっとベンチャー経営者とVCの双方の深い理解と誠実・正直な対話が必要と感じている。いままでの手掛けた取材コラムにVCとのパートナーとしてのあり方などキーメッセージはいっぱいつまっているので、是非多くのベンチャー経営者の皆さんにいままでの取材コラムを読んで、なにかしらの気づきになれば大変うれしく感じます。
最後に、快く取材に応じていただいた素晴らしいVCの皆様、熱きベンチャー経営者の皆様そして長い間ご覧いただいた読者の皆様に感謝します。本当にありがとうございました。
日本のVC業界そしてベンチャー業界の更なる飛躍と発展を心よりお祈りしております。
1985年上智大学数学科卒。日本IBM入社。2000年よりIBM Venture Capital Groupの設立メンバー(日本代表)として参画。IBM Venture Capital Groupは、IBM Corporationのグローバルチームでルー・ガースナー(前IBM CEO)のInnovation, Growth戦略の1つでマイノリティ投資はせず、ベンチャーキャピタル様との良好なリレーションシップ構築をするユニークなポジションをとる。総務省「情報フロンティア研究会」構成員、経済産業省「Vivid Software Vision研究会」委員、New Industry Leaders Summit(NILS)プランニングメンバー、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小ITベンチャー支援事業」のプロジェクトマネージャー(PM)、富山県立大学MOTの講師などを手掛ける。
また、真のビジネスのプロフェッショナル達に会社や組織を超えた繋がりをもつ機会を提供し、IT・コンテンツ産業のイノベーションの促進を目指すとともに、ベンチャー企業を応援するような場や機会を提供する「Venture BEAT Project」を手掛けている。
ブログ:「勝屋久の日々是々」
趣味:フラメンコギター、パワーヨガ、Henna(最近はまる)、踊ること(人前で)
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