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経営者×ベンチャーキャピタリスト=無限の可能性

2007年1月 25日 08時00分

世界に挑戦するベンチャーはいかにして生まれるか

永井美智子(編集部)、田中誠

 企業の成長は、決して経営者1人の努力だけでは無理だろう。その過程では、資金はもとより経営に関するアドバイスなどさまざまな支援が必要になる。こうした役割を担うひとつがベンチャーキャピタル(VC)だが、経営者とVCはどのようにして出会い、具体的にどういう関係を構築していくのか、そして人物像は。

 IBM Venture Capital Group日本担当の勝屋久氏が紹介する形式で、VCと経営者の両者に対談してリアルにお伝えします。今回は日本ベンチャーキャピタル西日本支社ベンチャーキャピタリストの藤本良一氏、日本アジア投資東京投資第4チームゼネラルマネージャーの有本雄観氏、SeedC代表取締役の崔正浩氏の登場です。

勝屋:今回は日本ベンチャーキャピタルの藤本さん、日本アジア投資の有本さん、そしてオンラインゲーム事業を手がけるSeedCの崔さんにおいで頂きました。まず、藤本さんと有本さんに会社の紹介を含めた自己紹介をお願い致します。

藤本:日本ベンチャーキャピタルは10年前にできたVCです。当時は金融会社の子会社しかVCがなかったんですが、米国のように事業会社が集まって企業を支援するVCを作ろうと、当時経済同友会の代表幹事だったウシオ電機の牛尾会長を中心に、オリックスの宮内会長兼CEO、セコムの飯田最高顧問など、日本の大企業のトップの方々が賛同して設立されました。東京、大阪の2拠点で六百数十億のファンドを集めて運用しています。設立から10年経って上場会社も100社近く出てきました。ようやく我々も一人前のVCになってきたかな、というところです。

 私自身は8年前に入社したんですが、その前は野村証券に10年ほどいて、そのうちの8年くらいは企業の株式公開(IPO)の手伝いをする仕事をしていました。ですから当時と同じようなことをしているのですが、今のほうがよりベンチャー企業のお手伝いを直接やらせてもらっているという感じです。

有本:日本アジア投資は独立系では最大手のVCで、国内投資額は2006年度の実績で約65億円です。ジャンルとしては創薬関連や介護サービスといったクオリティオブライフ(QOL)関連の企業や、IT関連の企業が多くなっています。「小さく生んで大きく育てる」というコンセプトのもと、アーリーステージから企業の規模にあった段階的な投資を心がけています。

 私自身は新卒で入社して9年目になります。初めは大阪支店にいて、約2年前に東京本社に来ました。ただ、大阪にいた頃から東京との接点が徐々に増えていたこともあり、東京の企業にも数年前から投資はしていましたね。

 たとえ100人の人が認めないような企業でも、強いモチベーションを持って新しいイノベーションを提供しようとしている会社を世に出していくところに魅力を感じているので、企業ステージにとらわれることなく場合によっては会社の設立前から関与しています。VCとして提供できる付加価値をできるかぎり追求しながら投資をしていくというスタンスです。

勝屋:では崔さんからもSeedCの会社の特徴なども含め、自己紹介をお願いします。

:私はもともと韓国の大学で日本文学と経営学を専攻していました。ただ、大学を卒業する時になってもまだ社会に出たくなくて、もう少し遊んでいたかったんですよね(笑)。それで、きちんと名目を立てて遊ぶにはどうしたらいいかと考えた時に、大学の専攻を生かして、日本へ行って経営の勉強をしようと思ったんです。それなら恐い父親も許してくれるだろうと(笑)。それで日本の早稲田大学で修士課程を学び、その後、韓国に帰って大手商社などで働いていました。SeedCを設立したのは2002年7月です。

 SeedCを設立した理由は、インターネットインフラが整ってきて、これからネット上のゲームが伸びていくだろうという予感があったからです。もともと日本はアーケードゲームや家庭用ゲームなどが浸透していて、質の良いユーザーが世界で一番多い国です。そういう方々にオンラインゲームの楽しさを分かってもらいたいという気持ちがありましたし、市場としても大きくなると思いました。

 現在の事業内容は、大きく分けて3つあります。1つ目はパブリッシング事業です。弊社がゲームの版権を持ってサービスを提供し、ユーザーから直接お金を頂くというものです。日本での競合企業は10社ほどです。

 2つ目は弊社の特徴でもある受託運営事業です。オンラインゲームは24時間のゲーム内監視、サーバ管理、ウェブサイトの管理、ユーザーサポートの4つが重要です。ここをうまくやるにはかなりの効率化が必要で、それなりの経験も必要になります。普通の企業が海外からゲームの版権を買ってきてオンラインゲームを運営しようと思っても、これがなかなかできないんですね。その仕事の全部、もしくは一部を引き受けてやるのが受託運営事業です。日本でこの事業をしている会社は弊社を含めて3社です。

 3つ目がオンラインゲームの開発です。サーバとネットワークの技術に関しては韓国が強いので、そこに特化した開発を弊社の韓国法人がしています。この3つの事業を1社で手がけている会社は日本で弊社しかないので、その点を周囲の方からも期待して頂いているというのが現状です。

勝屋:会社が成長していく過程で、VCからの資金調達を考えたきっかけは何だったんですか。

:韓国でもいくつかビジネスの経験はあったので、会社を作ったらすぐに資金調達に走らないといけないだろうということは分かっていました。実際、1000万円の資本金で会社を設立したんですが、事業に必要なサーバを買おうと思って見積もりをもらったら1500万円と言われたんです。まさか私も会社設立の翌日から借金を抱えるとは思ってなかったんですが(笑)、3カ月くらい経ったら5000万円くらいの資金需要はあるだろうと思っていました。そのため会社を作る前から藤本さんに軽い相談はしていたんです。

日本アジア投資 東京投資第4チーム ゼネラルマネージャー
有本雄観

1998年日本アジア投資に入社後、大阪支店および本社にて、首都圏・関西圏のベンチャー企業へのVC投資業務に従事。投資分野の中心はIT・ソフトウェア関連だが、中長期的にビジネスができるパートナーかという観点で投資先を選定しているため、結果的にクオリティ・オブ・ライフ(QOL)関連、その他サービス業等、幅広い業種への投資支援を行っている。投資スタイルとしては、シード・アーリーステージのベンチャー企業に対し、リードインベスターとして関与する形が多い。

趣味:前向きで楽しい人とおいしいものを食べたり飲んだりすること、娘(0歳)と遊ぶこと、ヤフーオークション(買い専門)、スキー、旅行など

投資先:日本ロングライフ(ヘラクレス:4355)、ドーン(ヘラクレス:2303)、ビービーネット(ヘラクレス:2318)、夢の街創造委員会(ヘラクレス:2484、元取締役)、ナチュラムSeedCシーア・インサイト・セキュリティアディレクト(現取締役)、HYPER DRIVE(現取締役)、他16社。

勝屋:お2人の最初の出会いはいつ頃だったんですか。

藤本:2001年ですね。大阪に大阪産業創造館(産創館)という大阪市経済局のインキュベーション施設があるんですが、そこで日本と韓国のベンチャーの橋渡しをしようというプロジェクトがあって、産創館が僕を呼んでくれたんです。2000年初頭から僕と有本さんは韓国に関わる別の会社に投資したりしていましたから、日本のVCで韓国に馴染みがあるのは藤本だろうということになったようです。崔さんはその時の韓国側の窓口でした。崔さんは韓国のインターネット企業協会の大阪事務局長という立場で、要するに韓国のベンチャーを日本に紹介する一番の窓口だったんです。

:私は産創館との1年間の契約で、韓国の企業を大阪に呼ぶ仕事をしていました。多くの企業が東京に行ってしまうので、大阪にも呼んで欲しいと頼まれたんです。その仕事の中で藤本さんとも出会いました。そして、2001年12月にソフトエキスポというIT関連のイベントが韓国であって、その時に藤本さんたちを招待したんです。

藤本氏、崔氏、有本氏

有本:その時に僕は藤本さんから声をかけてもらいました。面白い機会だから一緒に行こうと。3人で会ったのはその時が初めてです。投資先という関係を意識する前に会っていたわけですね。

勝屋:崔さんから見て、その時の藤本さんと有本さんの印象はどうでしたか。

:今と変わらないですね。出資して頂く前も出資して頂いた後も、ずっとこの会社を育てていくためにどうすればいいか、客観的な立場でいろいろとアドバイスしてくれる優しい人たちです。藤本さんは見た目も話し方も柔らかいんですが、有本さんの話し方は厳しいかな(笑)。韓国人はストレートに物事を言うのに慣れていますから全然問題ないんですが、会社の人は「今日、有本さん怒っていました?」なんて言っていることもありますね(笑)。もちろん、話している内容はすごく優しいですけど。

勝屋:会社を設立して資金を必要になった時に真っ先に思い浮かんだのがお2人だったんでしょうか。

:そうですね。

藤本:厳密に言うと、会社ができる少し前の2002年4月に崔さんと食事に行ったんですが、その時に会社を作るという相談を受けたんです。関西電力のサポートを受けることがすでに決まっていて、「それだったら弊社も投資しやすいので起業したら言ってください」という話はしていました。実際、7月に起業されて、9月に日本ベンチャーキャピタルが5000万円の投資をして、翌年初めに関西電力に投資してもらって会社の土台ができたんですね。その後は日本アジア投資などいろんな企業に参加してもらって会社を大きくしていったという流れです。

勝屋:かなりアーリーステージでの投資だったと思いますが、その会社が伸びるかどうかはどこで判断するんですか。

有本:まず、オンラインゲームは今後伸びる市場だと予想していました。その中でSeedCの良いところは、受託運営の事業を持っていて、それをしっかりと事業の柱にしていくんだという発想があったことです。

 僕はコンテンツ企業への投資に関して、必ずしも積極的でないんですよ。仮に1つのコンテンツがヒットしたとしても、そのブームが終わってしまったり、マーケティング戦略に失敗してしまったりすると大変なことになりますし、その次のコンテンツが成功する保証はどこにもないですから。ですからオンラインゲーム市場全体の伸びを追い風にしていけるようなビジネスモデルが必要だと思ったんです。

 先ほど崔さんから、いまだに韓国の方がサーバ関連の技術が進んでいるという話がありましたが、日本はゲームのシナリオやデザインの分野で進んでいる企業はあっても、オンラインゲーム事業の肝であるアフターサービスを提供できる企業がなかったんですね。だったらそこを補完できればコンテンツの善し悪しに左右されずに、安定的に伸びていけるんじゃないかと思いました。加えてオンラインゲーム先進国である韓国でコンテンツを集めることができるネットワーク、関西電力からの出資を引き出すような日本でのビジネスに関する理解などがありましたから、そういった点を複合的に評価しました。

日本ベンチャーキャピタル 西日本支社 ベンチャーキャピタリスト
藤本良一

神戸大学文学部英米文学科卒業。1987年野村證券に入社。野村證券には約11年在籍し、うち8年間は公開業務に従事、2社の株式公開(IPO)を担当する(いずれも野村證券主幹事)。1998年日本ベンチャーキャピタルに入社。おもな投資分野はIT・インターネット関連、大阪大学発ベンチャーなど。 「目標はクライナーパーキンスのジョン・ドーア」「ベンチャー育成は畑つくりから」を信条に活動し、泥臭い(ハングリーな)ベンチャー企業を好んで投資を行っている。大阪大学先端科学イノベーションセンターVBL部門客員研究員、三重県大阪事務所大阪ベンチャーサロンマネージャー兼務。

趣味:ガーデニングと昨年より始めたパラグライダー(はまっています!)

投資先:ネクストウェア(ヘラクレス:4814)、ビービーネット大和システム(東証1部:8939)夢の街創造委員会(ヘラクレス:2484)のほか、IT関係ではSeedC(オンラインゲーム)、ナチュラム(Eコマース)、神戸デジタル・ラボ(システムインテグレーター)、ゾイックス(証券データサービス)、メディアフュージョン(XMLデータベース)、IT以外ではN.A.gene(阪大発・ヘルスケア)、JAVA DD&A(洗車場チェーン)、エス・イー・アイ(リチウムイオン電池極板開発)、ワイ・シー・トイズ・ラボ(電子玩具)など

勝屋:崔さんに伺いたいんですが、これまで経営してきて、藤本さん、有本さんがいて助かったなと思ったのはどういう局面ですか。

:お2人には追加の出資もしてもらっていますからね。追加出資というのは1回だけの出資と比べてリスクも責任も大きいと思うんですが、ずっと弊社を信じて出資してもらえたことに感謝しています。あと、仕事の話だけでなく、個人的な話もするんです。「最近、女房がうるさい」とか、「従業員にこんなことを言われて頭が痛い」とか(笑)。社長という立場では社内では弱音を吐くこともできないんですが、そういう時に気楽にいろんな話ができるのが嬉しいです。

勝屋:VCにとっても経営者と信頼関係を作ることは重要ですね。

藤本:社長とお互いの考え方のキャッチボールができて本音が言い合えるというのはVCとして初歩の初歩で、必ずそれを確認してから投資しているんですが、崔さんの場合、最初に韓国に行った時から実家にご招待して頂いて、奥さま、お子さま、お父さまなど、皆さんにもてなして頂いたことがすごく印象的でした。他の投資先ではいくら本音で言い合えても、ご自宅まで招待していただいてご家族の皆さまにもてなして頂いたことはないですから。最初から心を開いて頂いたという感じなんです。

有本:信頼関係を維持するというのは、ざっくばらんに自分の言いたいことをさらけ出せるかどうか、そしてどういう時期でもさらけ出してくれるかどうかだと思うんです。投資をするタイミングでは、誰でもそこそこ本音をさらけ出すんですよね。お互いハッピーな状況なので。ただ、その後も信頼関係を継続できるかどうかが重要だと思います。

 VCから見れば、できていないことを第三者的に指摘するのは難しくないと思うんです。また、経営者にその意識がなければ根気良く、認識してもらえるように努めるだけです。ただ、意識はあっても様々な事情で後回しにせざるを得ないこともあるんですよね。そういう時にそればかり責め立てるのは良くないと思います。あるべき姿に関して共通の認識を持つことは極めて重要ですが、一朝一夕に解決できないことも多いですし、次元の低い話でVC側の組織の事情を押しつけるようなことをしても意味がないですしね。できない事情があるなら、例えば人的ソリューションを提供するなどして、それができる体制を組めるようできる限り協力すればいいんです。そういう役割もVCにはあると思います。

藤本:僕と有本さんは大体似たような企業に惚れ込んで投資しているんですが、今まで5社同じ会社に投資して、そのうち2社はもう株式公開しているんです。有本さんとは非常に役割分担がうまくいっていますね。僕は混沌とした中で事業の戦略を立てていくのが得意なんですが、反面、細かい部分を固めていくのは苦手なんですね。そのあたりは有本さんが得意なんです。

勝屋:崔さんに伺いたいんですが、これから資金調達を考えているような経営者に対して、VCとの付き合い方やVCの選び方について何かアドバイスはありますか。

:それぞれの経営者によって違いますから、会社によっては例えば藤本さんや有本さんと相性が合わないところもあると思います。相性というと抽象的かもしれませんが、相手との話し合いの中でキャピタルゲイン(株式売却益)以外の何かが感じられるかどうかが重要だと思います。

勝屋:有本さん、藤本さんがVCをやっていて嬉しかったこと、もしくはつらかったことにはどんなことがありますか。

有本:嬉しいことは些細なことからたくさんあるのですが、分かりやすく表現しやすいものとしては初めて自分が投資した企業が上場した時、それから上場した企業に良い株価が付いた時ですね。ただ、それがその後の自分の価値を保証するものでもないですし、一方でとても引き締まる瞬間でもあります。逆につらいことはあまりありません。趣味の延長というと語弊がありますが、ライフワークだと思っていますので。

藤本:僕もこの仕事は天職だと思っています。まだ誰も知らない状況で自分だけがその原石の輝きを見つけて、磨いていったら誰もが認める美しさになった――その時の喜びは大きいですね。

 それから、上場した時に感謝されるのはもちろん一番嬉しいんですが、上場後に株式を売却して株主ではなくなってもずっとフランクに付き合ってくれる経営者さんが多くて、そこからまた違うステージの付き合いができたりするのは嬉しいです。

勝屋:投資案件はどうやって探すんですか。

有本:僕は日本アジア投資に新卒で入っているので、最初はまったく企業とのネットワークがない状態でした。だから、いわゆる飛び込みの電話をかけたり、展示会に行ったりして探すしかなかったんです。そうやっていろいろな人から信頼を得て、徐々に企業を紹介してもらえるようになりました。今はほとんど飛び込み的な営業はしていませんね。

 最近は、「良い会社なんだけど自分たちでは難しいのでリードインベスターとして参加してくれないか」というような話を頂くこともあります。そういう時は自分の価値も上がってきたのかなと思います。入社当初からできる限り様々な出会いの場を含め、場数を踏む機会を逃さないようにしようと考えていて、取締役会に参加したり、仲間の経営者と飲む場所に誘われるようなことがあれば積極的に行っていました。今では比較的コンスタントに面白い話を頂けるようになっています。

 投資基準としては、まずその経営者が中長期的に人間として信頼できるかどうかですね。あと、最近は世界的にイノベーションを提供できるような会社に投資したいという気持ちが強くなりました。目先のIPOを求めていると、どうしてもそういう発想が薄れてしまうんです。IPOやキャピタルゲインの獲得だけに捉われてしまうとどうしても近視眼的、保守的になり、付加価値を追求していこうという姿勢が弱くなってしまいがちなので、違う視点も持つべきだと思います。

SeedC 代表取締役
崔正浩

1969年韓国ソウルで生まれる。1993年高麗大学文学部卒業、1995年早稲田大学大学院(商学研究科修士国際貿易専攻)卒業後、韓国新世界にて勤務。経営企画室企画チームに所属。1998年末に世界で初めてオンライン日本語教育事業を行うJ-CAMPUSを創業。2000年Tiger Japanを創業。2001年に大阪産業創造館アジアンベンチャーマーケットの運営に関するコンサルティング業務で来日。2002年ブロードゲーム(2005年にSeedCに社名変更)を創業。家族は妻(34歳)、娘(6歳)、息子(3歳)がいる。

趣味:囲碁、世界史関連読書

勝屋:将来、どういうキャピタリストになりたいですか。

藤本:僕も有本さんと同じ考えで、世界に挑戦できるベンチャーを育てたいです。一番挑戦したいのはNASDAQに上場する会社を生み出すことですね。キャピタリストの中にはよく「シリコンバレーに行ってシリコンバレーの会社に投資して、向こうで上場させたい」という人がいますが、僕の今の夢は日本で投資した会社が世界の市場で上場することです。崔さんも日本から韓国、欧米に進出するというプロジェクトを準備されていますが、そういう発想で一緒に仕事をしたいと思いますね。

有本:VCはどこまでいっても黒子なので、経営者という主役の影でどこまで良い脇役になれるかがポイントですよね。主役になれないという部分がフラストレーションになることはあります。そういう意味では経営者になりたいという願望は確かにありますし、もともとVCに入ったのも経営者へのあこがれがあったからです。ただ今は、いざとなれば経営できるという能力を持ったキャピタリストになりたいというのが希望ですね。

勝屋:これからキャピタリストになりたいと思っている若い人にアドバイスをお願いします。

藤本:自分自身の付加価値を上げることが重要だと思います。自分が高いレベルにあれば高いレベルの人たちと巡り会えますから、謙虚な心を持ちながらも、高いレベルを目指して自分を磨いて欲しいと思います。

有本:結果だけを見ると「儲かった」「儲からない」という良くも悪くも派手な世界だと思いますが、実は地道な仕事だと思うんです。経営者と良好にコミュニケーションが取れる関係を維持しつつ、コツコツと企業価値を高める努力をして、その結果、IPOなどの果実を得るわけですから。

 また、金融のテクニックを駆使する仕事だという誤解があるのかもしれませんが、実際は人間としての自分の生き方をフルにぶつける仕事だと思います。新しい産業を育てることで、VCも、VCにお金を預けた側も、投資を受けた側も、そして社会全体もハッピーになれる。ある意味分かりやすい事業だと思うので、そういうことに興味を持てる人にはどんどん入ってきてもらいたいですね。

勝屋:SeedCは今後どういう会社にしていきたいと思っていますか。

:現実的な話と抽象的な話に分かれます。まず現実的な話として、これまで助けてもらった株主、社員、取引会社など、お世話になった人への恩返しをしなくてはいけません。一番分かりやすい恩返しは弊社が上場することですので、まずはそこを目指して頑張ります。

 ただ、会社から見ると上場は終わりでなくて新しい始まりなので、その後は世界に進出していきたいですね。ITが発達しているのは東アジアです。ですからオンラインゲームという文化を、韓国、日本、中国、東南アジアまで広げた上で、欧米に進出していきたいんです。産業革命が遅れただけで何千年もの歴史がある東洋圏が欧米から低く見られている感覚があるので、ビジネスの世界で戦争をしかけるつもりでやっていきたいと思います(笑)

 韓国には2006年10月に現地法人を作っていますし、オーストラリアにも2007年1月に法人を設立しました。

 それからもうひとつ、抽象的な話なんですが、今まで会社を経営してきて一番記憶に残っていることがあります。今はもうサービスを停止していますが、「アッピーオンライン」という弊社が初めて提供したオンラインゲームがありました。

 ある日僕の家に、娘さんがアッピーオンラインをやっているというお父さんから手紙が来たんです。そこには、娘は小学校2年で白血病である。あと1〜2年しか生きられない。娘は最初に男性キャラクターを選んで育ててしまったが、女性のキャラクターに変えてもらえないかと書いてありました。

 そのゲームは途中で性別を変えると、それまで持っていたアイテムや武器がすべてなくなってしまうので、彼女がそれをすると生きている間に元の装備に戻せないかもしれない。だから何とかしてくれないかという手紙だったんです。娘が本当に病気であることはいくらでも証明できるから信じて欲しいとも書いてありました。

 それで会社で会議をしたんですが、普通ではやっぱり無理なんですよね。その子だけ特別扱いをしてしまうとコミュニティが荒れてしまいますから。そこで、ゲーム全体で性別転換イベントというのをやることにしたんです。期間を決めて、その間に申し込んだ人は装備をそのままに性別を変えられるというイベントです。そうしたらそのお父さんから丁寧なお礼の返事が来ました。それは一生忘れられない出来事ですね。

 たとえ上場ができずに何年後かに会社がつぶれてしまっても、そういう感動をいつも創れる会社であれば、それは意味のあることじゃないかと思うんです。そういう抽象的なことと現実的なことを一緒にできるような会社になりたいですね。

藤本:「カーディナル・サーガ」というゲームでは、作家の中山千夏さんがゲーム内で経験したネット恋愛を本(「妖精の詩」飛鳥新社)にして出版したこともありましたね。

:そうですね。そういう事例をいくつも創れる会社ができればいいですね。

IBM Venture Capital Group ベンチャーディベロップメントエグゼクティブ日本担当
勝屋 久

1985年上智大学数学科卒。日本IBM入社。2000年よりIBM Venture Capital Groupの設立メンバー(日本代表)として参画。IBM Venture Capital Groupは、IBM Corporationのグローバルチームでルー・ガースナー(前IBM CEO)のInnovation、Growth戦略の1つでマイノリティ投資はせず、ベンチャーキャピタル様との良好なリレーションシップ構築をするユニークなポジションをとる。総務省「情報フロンティア研究会」構成員、New Industry Leaders Summit(NILS)プランニングメンバー、独立行政法人情報処理推進機構「中小ITベンチャー支援事業」のプロジェクトマネージャー(PM)などを手掛ける。

また、真のビジネスのプロフェッショナル達に会社や組織を超えた繋がりをもつ機会を提供し、IT・コンテンツ産業のイノベーションの促進を目指すとともに、ベンチャー企業を応援するような場や機会を提供する「Venture BEAT Project」のプランニングメンバーを務める。

ブログ:「勝屋久の日々是々

趣味:フラメンコギター、パワーヨガ、Henna(最近はまる)、踊ること(人前で)