Tech Venture 2008
松島拡
ユーザーが携帯電話のマイクを通して歌った曲名を、高速な検索手法を使って当てる「うたごえ検索」を看板技術として、2001年に設立されたウタゴエ。「人々のコミュニケーションを豊かにする」をポリシーとする同社は、グリッド技術を用いて、高品質かつ低コストで映像・音声・ファイルを配信する事業にも着手し、すでに海外進出への第一歩も踏み出している。
同社代表取締役社長の園田智也氏に、事業概要や今後の展望などについて聞いた。
当社設立当初からの事業である、歌声による曲検索システム「うたごえ検索」は、私が早稲田大学在学中に研究していた技術を事業化したもので、携帯電話向けの音声による楽曲検索サービスとして、携帯電話事業者にライセンス提供しています。2006年9月からは、このサービスをプリインストールした端末も発売されており、ユーザー数は増え続けています。
「うたごえ検索技術」は、いわゆる音声認識とは違い、歌声という不完全なメロディパターンを、J-POPを中心とする数万の対応楽曲の全パートとマッチングさせ、順位付けする仕組みです。従来の技術では、音の高低のみを利用するものが多かったのですが、「うたごえ検索技術」では、音程とテンポを同等の情報量を持つ記号列に変換し、非常に精度の高い高速な検索を可能としました。現在では、現行の「うたごえ検索」の約1万倍の速度で動作し、より自由に歌ってもマッチングできる新アルゴリズムも開発済みです。
当社は「うたごえ検索技術」からスタートしましたが、2003年に社名変更した際、「24時間、365日、全世界をつなぐ」という当社のミッションを再確認し、次第に通信分野へと興味が移っていきました。そこで始めたのが、グリッド技術を応用した、映像コミュニケーション事業です。
当社では2年前から、実地での試験を繰り返し、精度を高めてきた結果、商用レベルのものを作り上げることができました。2008年に入ってからは、テレビ東京ブロードバンド社と共同で、日経CNBC(経済ニュース専門チャンネル)の電波で流れているコンテンツをネット上で同時配信するという実験を行いました。著作権の問題をクリアするのが難しいため、こうした技術がテレビ局に採用されるのは非常に珍しいケースといえます。現在では、このグリッド事業が当社の中核となりつつあります。
かつてウェブは、サーバーとクライアントというモデルで動く世界でしたが、人と人とをダイレクトにつなぐグリッド技術を使えば、ユーザーのPC同士を直接やりとりさせ、いろいろなビジネスモデルや経済効果を生むことができます。2011年には地上アナログ波が停止されますし、電波をインターネット上に乗せることは、新たな社会インフラを作っていく重要な試みです。
ただし、当社はあくまでも技術の立場として、テレビ局、インターネットプロバイダ事業者、そして著作権保護団体と一緒に作っていきたいと考えています。
「うたごえ検索」同様、中心は技術のライセンス提供です。加えてアメリカでは、ユーザーがチャネル番号を購入することで、自分のPCから映像配信する権利を持てるというビジネスモデルを導入しています。チャネル番号はすでにインターネットで購入可能ですが、まだマーケティングの最中で、今後の展開を模索している段階ですね。
学生時代に研究していた技術を世に出し、社会に新しい事業を創出したい、というのが一番の動機でした。私の所属していた早稲田大学村岡研究室には、日本初のサーチエンジン「千里眼」を開発した先輩と、歌声で楽曲を探す研究をしている先輩がいました。私は、その二つの技術を融合して、ビジネスにしようと思ったのです。
起業を始めたのは学部の2年生のときですが、ビジネスパートナーを見つけ、実際に会社を立ち上げるまでには5年ほどかかりました。設立時、ニューヨーク・タイムズに「うたごえ検索」を取り上げてもらったことがきっかけで、グローバルに展開し、世界で通用する会社にしたい、という目標を持つようになりました。
アメリカの場合、有望なベンチャー企業は、ベンチャーキャピタルの強力なサポートを受けられます。また、アメリカのベンチャーキャピタルは、例えば利益を上げている検索エンジンの会社に投資する一方で、収益の少ない動画共有サービスの会社にも投資し、この2社を掛け合わせることでさらなる成功を収めています。短期的には儲からない動画共有サービス会社でも、どんどんインフラを追加し、最高のサービスを開発・提供できる環境があるわけです。
一方、日本では、彼らと対抗するだけの資金を集めるのが難しいだけでなく、売却でイグジットしづらい市場になっています。日本のITベンチャーは、技術的には確実にすごいものを持っています。でも、相手はいわば「シリコンバレー株式会社」ですから、これと正面から戦うのでは、分が悪いのではないでしょうか。
いくつかのパターンを考えていますが、まずは現地の文化に溶け込んで、いちプレーヤーとして立ち上がっていく方法です。2つ目として、アメリカにいながら日本法人を相手にビジネス展開し、その収益を使って、投資を受けずにサービスを作るパターンもあります。ただ、最も重要だと思っているのは、3つ目のパターン、日本にいながら海外展開する方法です。本当に優れた技術やサービスを持って、世界に向けて発信していれば、本来、海外からもニーズのある顧客がラブコールを送ってくださるはずですから。
一般的に、技術が開発されて市場に到達するまでに要する期間は、約18カ月といわれます。当社も、技術にとんがった部分を扱っているので、市場投入までの時間のマネジメントが非常に重要な課題ですね。もちろん、映像のリアルタイム性や画質の確保など、技術的な課題も残されています。
当社が、2008年のキーワードとして最重視しているのは、「携帯」と「グローバル」です。具体的には、現在のメイン2事業を、2009年中に携帯電話上でひとつに統合する予定です。ワンセグの普及によって、携帯電話でテレビを観る習慣ができつつあることは、当社にとって追い風になるだろうと期待しています。グローバル展開に関しては、手探りながら先に述べた3つのパターンをすでに試しています。3年以内に、ウタゴエの社名、あるいは提供サービスが、世界中で知られている状態になっていればいいですね。
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