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国内IT業界の活性化には何が必要か

佐保:みなさんも知っていると思いますが、「国内IT業界は暗い」と指摘され、学生のベンチャー志向も薄れていると言われています。そのことについてどう感じていますか?

画像の説明 渡邊恵太氏:慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 博士課程。人間の知覚や心理を軸に,次世代アプリケーションの研究、2002年頃学会でマッシュアップ的ソフト「メモリウム」を発表し、評価を得る。

渡邊氏:確かに、SEにはなりたくないと思ってしまいますね。40歳になると切られるなんていう話も聞くし。たとえば、javaの技術者になっても30年後に通用するのかというと、先は不安ですからね。

碇氏:職種は違うけど、私はアニメーターになりたいと思っていました。でも、アニメーターもSEと同じで、キツイ仕事なのに安い給料ですよね…。サービスやエンターテインメントコンテンツの基盤を支える人たちがそういう状況なのはおかしいと思うんです。技術者やアニメーターなど必要とされている仕事に就く人が報われるような社会でないといけないはず。

佐俣:世間のイメージは若い人たちがその仕事に就くか否かを判断するための重要なことなのに、良い話はなかなか出てきませんね。これでは、誰も技術者になりたいと思わなくなってしまいます。

画像の説明 佐俣アンリ:慶應義塾大学5年生(座談会当時)。ITを軸に起業家、ベンチャーキャピタルの人と生態系に興味を持つ。本企画では司会を担当。

 この問題は業界全体の課題という側面があり、もっと深い部分の問題かもしれません。ただ、個人の問題として考えたとき、技術が人に近づいてきた分、多くの人がITリテラシーを上げて、人も変わらなきゃいけないと思います。

渡邊氏:それもありますけど、技術者の人がどのようなモチベーションで技術者になるのかということもあるんじゃないかな。

 「プログラミングがやりたい」という人はたくさんいるけど、「できたら何を作るのか?」というところが明確じゃない人が意外と多いんじゃないかな。そこが一番大事なのに。だから、プログラムを書けるようになりたいというよりも、何がやりたいかを決めた方がいいですよ。

 プログラミングを学ぶよりも何がやりたいかを考えることが必要でしょう。それが見つかったときに、プログラミングができるようになるんじゃないかな。やりたいことさえはっきりしていれば、Webからコピペで作っちゃうこともできるんだから(笑)

画像の説明 田尻敏寛氏:京都大学工学部電子工学科卒、同大学情報学研究科の大学院生(座談会当時)。プログラム、デザイン、営業を独学で学び、2006年8月25日に株式会社でんでんを設立。京都の伝統工芸品を中心に、日本の文化を世界に広める学生起業家。ITソリューション、イベント企画なども手がけている。

田尻氏:僕はFLASHの制作を人に頼む余裕がなかったときに自分で覚えましたよ。やりたいことがあれば、できない人でもやるんですよ。

碇氏:何が面白いのか分かる能力も必要ですね。面白いと思う一歩手前の視点、分析力が大事。何が面白いのか、気づきがあればストックが増えるでしょう。それが「作りたい」という気持ちにつながるんだと思う。

佐俣:誰も目を付けなかったものに手を出すと、「変わってる」と言われてしまう日本的な問題もありますよね。言われてもはねのける開き直りも必要と思うんだけど…。

画像の説明 碇氏:電気通信大学4年生。2004年にFLASHムービー「マイアヒ」を制作し、公開1週間で10万PVを越える大ブームを巻き起こした。大学ではヴァーチャルリアリティとヒューマンインターフェースを研究している。

碇氏:自分が面白いと思うものができたから、それを見て欲しいという気持ちは誰もが持っていると思うんですよ。だから、とりあえず引っ込み思案はやめて自分の意見や作品を出してみる。個人的にはリスクは低いんだし、失敗しても平気だと思っていますよ(笑)

渡邊氏:そう、ネット上あるいは人類に「ひとりくらいこんな人間がいてもいいかな」と思えば、気も楽になります。

佐俣:テレビで流行ったものはそれが横並びの価値観や見方で一斉に話題になるけど、ネットはテレビほど波及効果はなくとも、もっと広い範囲でさまざまな価値観や見方がさまざまな形となって話題になる。テレビの一方向のコミュニケーションではなく、ネットは双方向のコミュニケーションができるところがすごくて、いわば人同士の価値観のマッシュアップが醍醐味なんだから、自分をもっと出すというのは大切ですよね。

「楽しい」をビジネスにする将来の展望

佐俣:次はみなさんが今後何をしていきたいのかについて聞いていきたいと思います。

碇氏:近いうちにWebサービスを開発している人たちと、ビジネスの縛りを考えずにみんなで楽しいことを作ろうという話で盛り上がっています。

 コミュニケーションに軸を置いて、さまざまな分野の人達が連動して仕事をするような場所ができれば面白いと思ってます。アマチュア同士、プロ同士、またはアマチュアとプロが組んで新しい何かが生まれてくる。そこから日本のWebをもっと面白くしていきたいです。

渡邊氏 「プログラミングを学ぶよりも何がやりたいかを考えることが必要でしょう。それが見つかったときに、プログラミングができるようになるんじゃないかな」

渡邊氏:最近、ITの変化が激しいと感じているので、人間を軸とした100年後にも通用するものを作っていきたいと思います。人間の感覚に通じるようなシステムということですね。

田尻:ITリテラシーの話が出ましたが、IT化するだけでビジネスが成り立つものもあります。リテラシーのレベルが一般的に足並みそろう日も遠くないと思います。その時代が来たとき、価値が出せるような自分になっていたい。ITのインフラがある世界で世の中に何ができるか、やはり楽しいことを常に提供できる立場でいたいです。

渡邊:僕らが生き残れる世界をどうしたら作れるかも課題ですね(笑)

田尻:自分が楽しいと感じるビジネスを追及しても、それが経済活動とリンクしづらいという問題には取り組んでいかなければならいですよね。

 今はITを活用したWebサービス関連の経済波及効果は経済全体の規模から比べると低いのに、メディアがそれらを大々的に取り上げてくれていますよね。でも、市場規模が大きいところで ITが、 うまいこと活用され始めたら、ITによる経済波及効果は桁が1つも2つも変わってくる。

 ITの生み出す価値が全く異なる見方をされる日はそう遠くない未来にやってくるでしょうから、そうした現実的なビジネスの側面からITを見ていくことが重要になってくるでしょう。

碇氏:わたし自身としても、Webサービスをどのようにマネタイズすればいいのかというのは今後の課題です。サービスの提供のみで食べていくことは難しいですから。でも、そこが将来、IT業界が成長する否かのカギとなるのでしょうね。

田尻氏:そうですね。それにはもっと大きなディールでITを考えなければならないでしょう。

田尻氏 「日本は産業構造が縦割りで、ITも縦割りで括られている。だから横の連携がなく、業界同士のリレーションがない。これでは面白くないですよね。そうならないためにも、世の中全体で変わっていかなければという志が日本全体で必要になるでしょう」

 日本は産業構造が縦割りで、ITも縦割りで括られている。だから横の連携がなく、業界同士のリレーションがない。ただ一つの業界だけにとらわれていると、本当に面白いものを作って価値の最大化を図るのはなかなか難しく、小金を稼ぐため、という感じになってしまいますが、これでは面白くないですよね。そうならないためにも、世の中全体で変わっていかなければという志が日本全体で必要になるでしょう。

佐俣:ベンチャーキャピタルも面白いものを追及する人が少なくなったと言われています。業界全体としても閉塞感があり、模索している状態なんです。投資側は「面白いものつくるヤツいないよね」と呟き、投資される側も「まともな投資家いないよね」と不満を言う状態。

 双方が文句を言うようなデフレスパイラルのままではいけないと思っているんですよ。しかも、双方が「いい技術」「海外志向」と口をそろえ、自分たちを否定することにもつながる環境の中で働いていて、本当に楽しいのかなと。起業することの本当の喜びはそんな環境の中にはないんじゃないかな。

渡邊氏:ベンチャーキャピタルもいい起業家や技術者を探そうとしてないんじゃないかな。会社がないと投資ができないというけど、最近ではWebサイトに投資するという話も聞きます。これからは個人に投資するという時代が来るかもしれませんね。

佐俣:日本はその仕組みづくりができていないのが現状なんですよ。シリコンバレーにはスーパーエンジニアとかすごい目利きのできる投資家など優秀な人材がたくさんいて、それらが自然と結びついていくような仕組みがあるのですが、それが日本にはない。

碇氏 「自分が面白いと思うものができたから、それを見て欲しいという気持ちは誰もが持っていると思うんですよ。だから、とりあえず引っ込み思案はやめて自分の意見や作品を出してみる。失敗してもいいじゃないですか」

碇氏:わたしも独立してまでビジネスをやりたいと思わないのは、シリコンバレーのようなビッグドリームがないからかも。もっと日本でもシリコンバレーのようなビックドリームにつながるような仕組みがあると実感できれば考えも変わると思うんですけど。

佐俣:でも、ネットからプロの歌手が生まれてくるように、市場とネットがもっとつながって、ネットを通じて優秀な人材が排出されることの社会的価値がもっと高くなるといいですよね。社会的に価値のあることに対してお金が付かないのは、どう考えてもおかしい。

佐俣 「起業家と投資家の双方が「いい技術」「海外志向」と口をそろえ、自分たちを否定することにもつながる環境の中で働いていて、本当に楽しいのかなと。起業することの本当の喜びはそんな環境の中にはないんじゃないかな」

 日本における起業家を支える基盤が脆弱なのは、さまざまな問題に起因しているので、一言でどうこう言うことはできないでしょう。でも、「ライブドアショック」の反省からIT業界が技術に固執しすぎる傾向が薄まり、より多くの人が「人に近づいてきた技術」を技術としてしか捉えるのではなく、もっと広い「人間の限界を超えるための存在」としてITに接するようになってくれば、業界の人たちが何となく持っている閉塞感から脱出するための一歩になるのかもしれませんよね。