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 ジャスダック証券取引所は11月13日、先端技術を持つ新興企業向け新市場「NEO」を創設する。同日、ソフトウェア開発のユビキタス、12月6日には電子マネー運営のウェブマネーが上場する見通しとなった。2社ともIT関連企業だ。

 従来の適時開示に加え、新たに経営計画の進ちょく状況などの説明を行う「マイルストーン開示」などを導入。JASDAQに上場する企業のベンチャー色が薄れつつあると指摘される中、再び新興企業の誘致戦略を強化することで、東証マザーズや大証ヘラクレスに対抗する。

 今後、IT関連企業に大きな影響を与えると予測されるNEOの可能性と課題を探った。

模索する本来の「新興市場」というイメージ

 NEOの取引開始を間近に控え、ジャスダック証券取引所取締役代表執行役社長である筒井高志氏は、ある構想を頭の中に思い浮かべる。

筒井氏 「『JASDAQセレクト』という新市場を作りたい」と語るジャスダック証券取引所取締役代表執行役社長である筒井高志氏

 「JASDAQは実績積み上げ型、NEOはイノベーション型の市場で、2つはあくまで並列の関係。この2つの上に、例えば『JASDAQセレクト』という新市場を作りたい」

 本来、国内の主要取引所となる東京証券取引所の一方で、急成長が見込める国内の新興銘柄の取引を担っていた旧店頭市場を引き継いだJASDAQ。それが2006年1月の「ライブドアショック」による新興市場の長期低迷が続く中、東証マザーズおよび大証ヘラクレスに比べ、急成長が見込める先端業種銘柄の比率が低いと指摘されている。

 市場関係者たちは「JASDAQは急成長は見込めないが中規模の安定した銘柄がそろっているというイメージ。急成長が見込める小規模の新興企業であれば、大証の地盤沈下も指摘される中、将来的に東証を通じて世界を目指せるマザーズに向かうのが自然の流れ」と口をそろえる。

 筒井氏はこうした市場関係者たちの見方を踏まえ、JASDAQの主力銘柄とNEOの優良銘柄が集まる新市場を提案することで「中規模の安定銘柄が多い」というイメージを払拭。世界最大の新興市場となる米NASDAQのように、急成長銘柄を期待する投資家を呼び込みたいという狙いがあるようだ。

 「当初は店頭市場で取引されたソニー(当時は東京通信工業)のような世界に通用するベンチャーを、再び育てていきたい」(筒井氏)

投資家の信頼回復と「育てる」を重視

 NEOが掲げるキーワードはイノベーション。「ライブドアショック」以降、新興市場に漂う閉塞感をかんがみ、「新しい日本を作るためにはイノベーションが必要。渦巻きを起こせるような研究開発型で新しいビジネスモデルを持った企業が健全かつ公開企業として登場してもらいたいと思っている」(同)。

 業種は特に限定していないが、特にIT関連、バイオテクノロジー、新素材、ロボット関連などの企業を想定している模様で、月に1社ペースの上場を見込み、銘柄の量よりも質を重視。上場審査は従来のJASDAQ上場会社よりも株主数、純資産額、売上高などについての基準を緩和しているが、「マイルストーン開示」でIR(投資家向け広報)活動の強化を求めているのが特徴だ。

 「(ライブドア前々社長の)堀江(貴文被告)はいい面もたくさんあったが、どうしても許せないのは『自分だけ良ければいい』という精神。新しいイノベーションを起こすには、シリコンバレーのようにいい企業が出てくればみんなで拍手するという精神がないと、研究開発型のベンチャーが育つ土壌は整わない」(同)。

 投資家の信頼回復を重視する姿勢を示すとともに、シリコンバレー型の「ベンチャーを育てる土壌がある」というイメージを前面に押し出している。

 その上で将来の成長性を示す適切な事業計画を重視。先端技術がある場合には、その技術について説明する関連書類の提出を義務付け、新設する技術評価組織「アドバイザリー・コミッティー」がこれを評価するという仕組みも導入した。

 また、「これまでは株式公開をお待ちするという姿勢が強かったが、これからはわたしたちの方からいい企業を発見しに行くことにも力を入れていく」(同)としており、積極的に新興企業の成長を支援していく姿勢を打ち出すことで、マザーズやヘラクレスとの違いを訴えている。

賛否両論の市場関係者たち

 ただ、市場関係者の反応は芳しくない。

 当時、ナスダック・ジャパン(現ヘラクレス)の立ち上げに携わったある人物は、「結局のところ、当時のナスダック・ジャパンがやろうとしていたことと大差ない。むしろ、流動性を高めるためにネット系も入れつつスギ薬局のような大きいところも入れるというようなやり方をしたナスダック・ジャパンの手法と比べて見劣りする」との見方を示す。

 また、某準大手証券会社の現場担当者も「正直、ユビキタスの上場承認で新市場が本当にできるという事実を知った。話を聞いてみても、成長性がキーワードのマザーズと比べ、イノベーションがキーワードというのは理解できない。本質的にはイノベーションを持って成長性を実現するわけだから、やはりマザーズとバッティングしてしまい、新市場を創設する理由が見当たらない」と手厳しい。

 その一方、「マイルストーン開示」の導入については肯定的な意見も聞こえてくる。技術開発型の新興企業においては、その技術を事業化するまでに時間がかかり、その実現までの計画を損益計算書上では表現しづらいケースもあるためだ。「今の会計制度の限界を補完する仕組みに発展する可能性も含めて注目している」(監査法人トーマツのパートナー、LSGシニアアドバイザー兼TMTグループシニアアドバイザーである北地達明氏)。

 しかし、開発に年月を要する企業はバイオ系のベンチャーなど限定的であるという見方もあり、特に現時点で上場が決まっている2社を含めたIT関連企業としてのメリットが感じづらいという課題は残る。

時価総額バブルを超えて

 長く株式市場の動向を見てきたある新聞記者は、「ライブドアショック」に端を発した新興市場の長期低迷を「これはネットバブルの崩壊ではなく、時価総額バブルの崩壊だった」と振り返る。

 前出の準大手証券担当者も「利益も大して出ていないのに時価総額が1000億円を超えるなどという事態は、本来であればありえない。正直、JASDAQ以下の新興市場は投資家に見向きもされないという中で、子供が大人と喧嘩をするときのように、いつの間にか“反則”をして時価総額を吊り上げるという流れが横行してしまった」と指摘している。

 株式分割などで流動性を高めようとした市場とこれを悪用した企業。その予備軍を送り込み続けてしまった証券会社と監査の行き届かなかった監査法人。投資家の信頼を損ねてしまった時価総額バブルの根っこには、市場関係者すべての責任が存在する。

 昨今、将来の日本経済発展に寄与しうる技術開発型ベンチャーの必要性が指摘されている。その実現に向け、「マイルストーン開示」などの一歩踏み込んだ仕組みを導入し、まだ“汚れていない新市場”が誕生したことは、「単純に喜ばしい」(北地氏)。

 今後、ジャスダック証券取引所は魅力的な企業の誘致を促しつつ、市場関係者にNEOの魅力を十二分に伝えていく営業努力が必要だ。その一方で、すべての市場関係者がこのまだ汚れていない新市場を大切に育てていこうとする意識も欠かせない。

 2007年度の決算が発表される2008年夏以降、市場関係者が「ライブドアショック」の反省をいかに受け止め、改善に務めてきたかの答えが見えてくる。市場関係者たちの暴走による虚像の創出は、二度と許されない。NEOに求められるのは、虚像ではない、真の技術開発型ベンチャーを育てる土壌作りだと言える。