2006年10月19日 08時00分
秋葉けんた(マイカ)
携帯電話を中心とするミドルウェアを開発、提供するアクロディアは10月19日、2004年の創業から2年という短い期間で東京証券取引所マザーズへの上場を果たす。通信キャリアとの長い付き合いがないと参入が難しい携帯電話のミドルウェア業界で驚くべき成長を遂げている企業と言えるだろう。
アクロディアの社名の由来は、最高を示す英語の接頭辞“acro-”と、発想を意味する“idea”を合わせたもの。「つまりアクロディアは、“最高の発想”を実現する技術会社を目指している」と語るのは、アクロディアの代表取締役社長 兼 CEOの堤純也氏だ。
アクロディアが提供するミドルウェアは、「機械をスムーズに操作できるようにすることで、機械を通じた人と人とのコミュニケーションもスムーズにする」というコンセプトで開発・販売されている。
主な製品はテキスト入力したメールが絵文字に自動変換され、動きのある表現が可能となる「VIVID Message」や、携帯電話のグラフィックインターフェースを簡単に変更できる「VIVID UI」だ。
早くから世界的に事業を展開し、既に大手企業との契約も締結している。中国の中国連合通信(China Unicom)にVIVID Messageのライセンスを提供したのを皮切りに、韓国のサムスン電子にはVIVID MessageとVIVID UIの販売契約を締結している。しかもサムスン電子との契約は日本など一部地域を除く全世界における、2年間の独占契約だ。
「サムスン電子は、非常にスピード感を重んじるパートナーで、いい物とわかれば、即採用してもらえた」(堤氏)という。
ミドルウェアのライセンス事業を中核としており、海外だけでなく、国内市場でのビジネスも堅調だという。「日本は海外と比べて慎重に物事が進む傾向が強く、コンサルティングや受託開発などを経て、販売契約に結びつく。それだけに、時間をかけて採用されたミドルウェアの信頼は厚く、競合他社にとっては簡単には覆せない脅威となりえる」
具体的には、製品導入のコンサルティングから入り、顧客から要望があれば評価用に試作品を受託開発する。そこで満足のいく結果が得られたら初めて商品をライセンス販売する形だ。
通常、ソフトウェアの開発には多くの資金と時間を要する。そのため、手持ちの資金が少ないベンチャー企業の場合、この部分をどうやってクリアするのかというのが最大の課題となっている。アクロディアでは開発コストを削減する目的から、コンテンツプロバイダとの共同開発にも力を入れている。開発する製品ごとにパートナーを募り、製品開発を続けているのだ。製品販売後には開発費の負担額に応じて利益をパートナーに分配する。
「開発パートナーはコンテンツプロバイダが多く、ユーザーのニーズを的確に把握している企業が多い。パートナーの意見を取り入れることで、より良い製品を開発できる。またパートナーによっては安定株主になってもらうこともあり、共同開発モデルはいろいろなメリットがある」
実際、アクロディアの株主にはバンダイネットワークス、アプリックス、ドコモ・ドットコム、ドワンゴ、ツタヤオンライン、インデックスなど、そうそうたる企業が名を連ねている。
現在、アクロディアでは製品ラインアップを「ユーザーインターフェース」「メッセージング」「コミュニティソリューション」「ゲーム」「カメラ」という5カテゴリに分類している。
「これらのカテゴリは、携帯電話の5大機能だ。つまり、どんなアプローチでも何かしらの提案ができるように製品ポートフォリオを用意している」
VIVID UIを使うと、3Dを使った新しいユーザーインターフェースも可能になる中でも力を入れているのがVIVID UIに代表されるユーザーインターフェース分野だ。アクロディアでは、ユーザーインターフェースをコンテンツプラットフォームととらえている。つまり、コンテンツプロバイダなどにユーザーインターフェースを作るツールを提供し、それぞれオリジナルのユーザーインターフェースを提供してもらうことで、ユーザーに新しい付加価値を提供しようというのだ。
「これまで通り、端末のメーカーがオリジナルユーザーインターフェースを制作し、差別化することもできる。どのインターフェースを選ぶかは、ユーザーに託してもよいのではないだろうか」
実際、小学生からお年寄りまで幅広いユーザーが利用している端末は多い。しかし、いろいろな人が使うはずの携帯電話に搭載されているユーザーインターフェースはあらかじめ決まったものが搭載されている。
「すべてのユーザーが使いやすいインターフェースというのは、事実上あり得ない。それは、ユーザーのリテラシーや好みなどにも関係しているためだ。それならばユーザーにインターフェースを選んでもらい、それぞれに適したものを使ってもらってみてはどうだろう、というのが当社の提案だ」
これらのユーザーインターフェースはパソコン上で作成でき、携帯電話上での表示/動作もエミュレータで確認できる。また、画面のデザインだけでなく、機能の細かいカスタマイズも可能だ。
例えば、子供用のインターフェースであれば、子供が使っていい機能だけを絞り込んだメニューを用意することもできる。シニア向けの場合には詳しい説明付きのメニューを採用したり、文字やコントラストを調整してシニアでも見やすい工夫をしたりすることもできるようになっている。
また、デザイン性を優先させるユーザーに対しては、3次元の効果を使ったり、動画やフラッシュなどのコンテンツと組み合わせたりしたものを提供することも可能だ。
VIVID Messageは特定の単語がメール本文上にあると、自動的にその絵を3Dなどで表示するメッセージングの分野では、VIVID Messageが代表的な製品となる。これは、メール本文中にキーワードを見つけたら自動的に絵文字を入れたり、文字を動かしたりするというものだ。テキストに対応して自動的にイラストが表示されるようにしたことで、絵文字を入力するのが苦手な人でも利用できる。
「絵文字は既に携帯電話では文化となっており、絵文字が入っていないメールを送ると“怖い”とか“怒っている”というように感じる人もいるようだ」
VIVID Messageはその機能がわかりやすいこともあり、「海外でも非常に喜ばれている」という。新しいコミュニケーションとして期待されているのというのだ。
このほか、電話をかけた相手が、受け手の着信音を選べる「VIVID Ring」、ゲームの開発環境である「X-Forge」などの製品があり、今後は携帯電話でパノラマ写真が撮影できる「VIVID Panorama」も提供する計画だ。
製品ラインアップは今後さらに拡充していく予定だという。携帯電話のミドルウェアを提供している企業にはブラウザを提供するACCESSやJavaプラットフォームのJBlendを開発・販売しているアプリックスなどがあるが、いずれも1つの製品に注力することで成長してきたことを考えると、この戦略は異色と言っていいだろう。
「当社では、単一商品に頼らず製品ラインアップを充実させ、純粋にライセンスビジネスを伸ばしていきたいと考えている。そのために、グローバルマーケティングを強化し、世界で競争力のある製品を次々に開発していくとともに、他のデバイスへの展開も視野に入れていきたい」
アクロディアの2006年3月期の業績は、売上高が10億7728万円、経常利益は8400万円となっている。2007年度には売上高が21億8800万円、経常利益は2億6300万円にまで急拡大する見込みだ。
これだけ短期間でここまで成長できたのは、アクロディアの持つ事業の開発スピードによるところが大きい。そしてその背景には、堤氏の経歴が少なからず関係しているようだ。
堤氏は、以前3Dアプリケーションをリアルタイムに動作させるMascotCapsuleで有名なエイチアイにおいて副社長兼CTOを務めた経歴を持つ。当時の経験や業界での人脈が、アクロディアで生かされているのだ。
「アクロディアとしてはまだ若い会社だが、事実上は長期間にわたって、携帯電話業界に身を置いていたことになる。エイチアイでは携帯電話業界におけるマーケティングのノウハウや技術を学んだ」
さらに同社の核となる人材は、堤氏と同じ大学の研究室で同じ人工知能の研究をしていた先輩・後輩の関係だという。持っているバックグランドが同じため、軸がぶれず、スピード感をもって事業を展開できる体制が整っているというのだ。
今回の上場によって、アクロディアは6億9460万円を調達する。研究開発や設備投資などに調達資金を充てる計画というが、堤氏によれば上場の目的は資金調達よりも、携帯電話のユーザーインターフェースをもっと変えるべきだという同社のメッセージをより世の中に広めることにあるという。
ユーザーインターフェースは、これまで通信キャリアはメーカーに任せていた聖域だった。しかし、携帯電話の番号ポータビリティ制度の導入を機に、他社との差別化ポイントとしてユーザーインターフェースに対するキャリアの関心が非常に高まってきている。アクロディアにとって追い風の状況となっているのだ。
今後は、携帯電話だけではなく家電やカーナビといった分野にも進出していきたいという。「ユーザーインターフェースは携帯電話や家電に残された、数少ない新たなプラットフォームだ」と堤氏は話し、ここを制することで確固たる地位を築きたい考えを示した。
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