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 「やれば何とかなる」「大抵のことは小さなこと」――。

 1997年頃からIT関連サービスの起業家活動を始め、激しい競争を生き抜き、新たなサービスを意欲的に開発し続けるECナビ社長の宇佐美進典氏は、どこか達観した部分を垣間見せます。その一方で、「遊びは真剣に、仕事は遊び心で」との柔軟さも忘れません。

 悩んだり弱気な態度は見せず、いつも楽しげ。その反面、社内外ともにバランス感覚に優れ、大抵のことには順応してしまう。そんな“宇佐美流の仕事術”の極意は何か――。

 そのヒントは、学生結婚を決意した日のある心境の変化にあるようです。

※こだまんが下のビデオで本企画の趣旨を説明いたします。

「居心地の良い場所を抜け出たい!」

--まずは宇佐美さんのルーツを探るべく、ご出身から教えて下さい。

宇佐美氏 宇佐美進典(うさみ・しんすけ)氏:1972年生まれ。愛知県出身。早稲田大学商学部卒。トーマツコンサルティングを経て1999年にアクシブドットコム(現ECナビ=2005年10月に社名変更)を設立。取締役COOに就任し、2002年10月から代表取締役CEO。2005年11月にサイボウズと合弁でcybozu.netを設立し代表取締役CEO就任。リサーチパネル、サイバーエージェント、PeXの取締役も務める。

 僕は地図で見ると名古屋の右上にある三好町で生まれ、大学で東京に出てくる前まではここに住んでいました。その当時は田園風景が広がっていて、のんびりした環境でしたね。小学校時代はバスケ、中学に入ってからはサッカーに熱中していました。

--インターネットで調べたら、「宇佐美」というキーワードで東海中学・東海高等学校のコミュニティを見つけたのですが?

 そんなコミュニティあるんですか?そうなんです。東海中高でサッカー部に所属していました。その一方でゲームも好きでしたね。とはいえ、ゲーム機ではなくて、何故だか「PC8801-FR」というパソコンで遊んでいました。当時、レンタルゲームソフト屋さんが結構あって、あれは重宝しましたね。

 ただPCにどっぷりではありませんでしたね。なんとなく、自分には自分でPCを駆使してプログラムすることには才能がないという感覚があったような気がします。

--運動好きの活発な少年時代という印象を受けますね。大学は地元を選択しなかったのはなぜですか?

 名古屋は僕にとって、とても過ごしやすい街でした。だからこそそんな居心地の良い場所を抜け出て、新たな環境でやってみたいという気持ちは強かったですね。

 1年間浪人をして、下手な鉄砲数撃てばあたるという考えで、関西と関東の大学を受けました。早稲田大学は法学部、政治経済、商学部、社会学部を受験して、ひとつだけ受かった商学部に入ることになりました。

--大学に入ってからはどんな活動をしていました?

 テニスサークルに入りました。

--サッカー部からテニスサークルというのは、随分とイメージチェンジですね?

 大学に入ったらテニスサークルに入らないといけないんじゃないかと(笑)。92年ですからバブルの残り香がまだあった頃ですしね。

--奥様とはそこで出会ったのですか?

 妻も名古屋出身で、浪人時代に出会いました。妻も同じ大学です。すぐにサークルは辞めて、大学1年の9月に結婚をしました。

「自分は他の学生と同じような人生は送れない」

--学生結婚ですか。ケースとしては余り多くはないと思いますが。

 子供を授かりまして。子供は天からの授かり物といいますからね。

--なるほど。そうなると、ご家族からサポートがあるにせよ、大学1年でお父さんになり、環境も変化するので何かをやらねばと心境も変化しますよね?

 かなりアルバイトをやりました。バーの店員に事務や弁当売り。医学ボランティアで我が身を実験台にして、世のため人のために試薬を飲んだりとかも。あとは引っ越しなんかもやりました。一方で、大学2年から3年にかけては、会計の勉強もしていました。

--商学部ではゼミに入っていたのですか?

 僕は成績があまりよくなくて、「ゼミなしっ子」だったんですよ。学生の約9割方はゼミに入れるんですけどね。他の学生との会話で「お前何ゼミ?」「俺、ゼミなしっ子」と答えると会話が続かないんですよ(笑)。

--では、会計の勉強にはどのような狙いがあったのでしょうか?

 大学1年で結婚をした時に、「自分は他の学生と同じような人生は送れない」「大企業に入ってそこで出世を目指すような生き方は無理だろう」という思いを強く感じたんです。ですから、「自分で自分の人生を切り拓いていこう」と。

 とはいえ、卒業してすぐにベンチャー企業を興したり、学生の間に起業したりするビジネスプランもない。そう考えた時に、いずれ事業を起こすのに一番近い業界として、経営コンサルタントを目指すことに決めました。「経営コンサルタントになるために今できることは会計だ」という思いで勉強していましたね。

--その当時、学生時代から経営コンサルティングを手がける会社に入ろうという人は、あまり多くはないと思うのですが。

 大学3年の終わりになると、就職情報誌が送られてきますよね。その中で、コンサルティング業界をチェックすると、募集要項に「会計士であること」という明確な記載はありませんでした。「もしかして必要ない!?」と気づきまして、勉強はやめてしまいました。

--勉強はやめても、結果的に1996年の新卒でトーマツコンサルティングに入られますが、入社前と後のコンサルティングに対するイメージはいかがでした?

 当時は今から考えれば甘い考え方でしたね。2〜3年働いて海外にMBAを取りに行き、戻ってきたら外資系に入り、35歳までに起業をしようかなと。これは本当に甘かった。

 また、コンサルティングは戦略やマーケティングに関して経営陣と会話をしてというぼんやりとしたイメージがありましたが、入社後の僕のプロジェクトは、信販会社のシステムリプレースのプロジェクトだったんです。システムに関して、このプロジェクトで学んだことは大きかったのですが、やはり当初抱いていたイメージとは大きく違いました。

宇佐美氏 「学生結婚の時は周りから止められましたが、実際に結婚して生活をしてみたらなんとかなりましたし、ベンチャーに行く時も止められましたが、行ってみたら何とかなったんですよ。だから、どんなことでも思いっきりやればいいかなと思っています」

 ちょうどこの会社を立ち上げてしばらくした後に、「ビットな集い」(ビットバレーの前身)で尾関茂雄さん(現Zeel代表取締役社長兼CEO)と知り合い、一緒に何かをやろうという話があがったのが、アクシブドットコム設立のきっかけですね。求人情報の検索エンジンの開発はその後立ち消えになってしまい、自分が立ち上げたイージーネットよりも尾関さんと一緒に立ち上げたアクシブドットコムのほうがメインになってしまったわけです。

--第1回の「ビットな集い」の話題が出ましたが、具体的に何を一緒にやろうという話になったんですか?

 かなりの頻度でICQというメッセンジャーで尾関さんと会話をする中で、インターネットで自分達でオンラインショップをやるのではなく、そういったショップに対してネット上でのプロモーションを支援するサービスをやろうという話になり、1999年の10月に株式会社アクシブドットコムを立ち上げました。創業時のメンバーは3人で、僕と尾関さんとシステム開発担当のアルバイトです。

--オンラインプロモーションを軸としてアクシブドットコムを立ち上げましたが、一番最初に始めたサービスは「MyID」の運営だったんですよね?

 そうです。「MyID」ではネットで様々なサービスのIDとパスワードをバラバラに管理する手間を省いて1つのIDで様々なサービスを利用できるようにしようとしていました。今で言うOpenIDの概念に似ていますね。

 実は設立当初は、「MyID」以外にもアフィリエイトASP事業も検討していました。

 しかし、立ち上がったばかりのベンチャーで2つの事業を同時に展開していく軸で行くのは大変でしたから、既に立ち上げていた「MyID」に絞ることを選択しました。ですが、「MyID」だけでどうやって収益化していくのかは見えていなくて、まずは懸賞サイトとして一度しっかり立ち上げようと決定したのが2000年3月の話ですね。会社を立ち上げて半年くらいは軸がフラついていました。ただとにかく世界を変えるようなすごいことをやっていこう、という想いだけは変わりませんでした。

--その後、2人の狙い通り事業は拡大し、2001年9月11日にサイバーエージェントグループに入り、2005年11月には会社名をECナビとして更に事業の成長は加速していかれますが、ECナビブランドに関する思い入れを教えて下さい。

 以前は新たなサービスをECナビのブランドの元で立ち上げて行くという方針でしたが、最近はすべてをECナビのブランドでという方向ではありません。会員データベースを最低限共有していれば、素早く新しいサービスを立ち上げることのほうを重視しています。

 2006年10月から事業部制にして、事業部ごとにサービスを提供して行く方向に進めており、ソーシャルブックマークサービス「Buzzssurl」は独自の展開をしています。

「やればなんとかなる」

--先程から宇佐美さんの話を伺っている中で、会社を取り巻く環境もさまざまな形に変わって行く中で、その状況を素直に受け止め、1つの形に捕らわれないでポジティブに持っていく力があると感じています。このポジティブさの根幹には学生結婚という人生の岐路が影響していますか?

 そうですね。一度レールをはずれた人間には失う物が何もないんですよね。やらないで後悔するよりも、やって反省すればいいじゃないかという思いは強いです。

 学生結婚の時は周りから止められましたが、実際に結婚して生活をしてみたらなんとかなりましたし、ベンチャーに行く時も止められましたが、行ってみたら何とかなったんですよ。だから、どんなことでも思いっきりやればいいかなと思っています。

--「やればなんとかなる」という言葉に僕自身もいつも勇気づけれます。さて、少しECナビの社内活動に関してお聞かせ下さい。ECナビには社内運動会の「ナビリンピック」や「サークル活動」があると伺っていますが、それ以外の活動についても教えてくれませんか?

 僕のこれまでの経験上、モチベーションの高い組織を作るには社内の交流が非常に大事だと感じています。また、会社がフラットな組織だけに相互の組織の溝をなくす意味でも、部署をまたいで行う運動会やサークルは良い影響を及ぼすのではないでしょうか。さらに、お互いの仕事内容などを知ってもらうという意味で「交流ランチ」というランダムで違う事業部の人たちとのランチタイムなども設けています。

--フラットということは、若手社員もフラッとやってきて「社長ちょっといいですか?」というイメージがありますが、社長の席もノーパティションで社員の皆さんに混ざっているんですか?

 以前は、一緒だったんですが、あるとき席の関係で「社長、ここ使うんで」と席がなくなり社長室をつくられてしまいました(笑)。ガラス張りなので、動物園の檻にいるような感じですが。

--宇佐美さんは2006年に共同著書で「SNSビジネス・ガイド Web2.0で変わる顧客マーケティングのルール」(出版元:インプレスジャパン)という本を出されていますが、これは新たな挑戦なのでしょうか?

 それもありますが、大学の時にゼミに入っていないので卒業論文を書いていないんですね。「ゼミなしっ子」のコンプレックスを解消するための卒業論文という意味合いも強いかもしれません(笑)。

 もう1つには、自分の考えを改めてまとめたかったんです。非常に大変でもう執筆は止めようと思ったのですが、今はデータベースという観点で最新のネットビジネスに関する本を書いています。

--2008年の新たな挑戦は?

宇佐美氏 「自分のモチベーションに関しては、毎日が楽しく嫌なことはすぐに忘れてしまうので落ち込むことはありません。世界を変えることをやりたいと思っているので、それと比較したら大抵のことは小さいことなんですよ」

 より海外志向を強くして行きたいと思っています。世界に挑戦していくようなビジネスを展開していきたいですね。中国の上海に子会社をつくったのですが、ここを拠点にして、もっと海外で事業を起こしていきたいと思っています。中国では現時点は高級ホテルの宿泊オークションサイト「慢慢走」を展開しています。

--なるほど。この会社をつくってから仕事とプライベートの区別がなくなったと聞いています。また子供との時間を早朝にとっているということですが。どんな会話するんですか?

 今は子供も中学生になり、部活動の朝練習に行ってしまうので、早朝に時間をとることも少なくなってしまいましたが、息子とは漫画・アニメの話で盛り上がることも多いですね。

「世界を変えたいから、大抵のことは小さいこと」

--そうそう、マンガ好きということですが、好きな本について教えてください。

 小学生の頃に呼んだ本なのですが、作家で花登筐さんの『どてらい男』ですね。丁稚奉公からの立身出世物語です。絶版なので古本屋でしか売っていませんが。

 漫画は本当に大好きで、週刊の青年・少年マンガはほとんど全部読んでいます。月40冊以上読んでると思います。最近では『大きく振りかぶって』(著ひぐちアサ)ですね。あんなに面白いとは思いませんでした。

(このあとしばらくマンガの話で盛り上がってしまいました)

--では、話を戻して、尊敬する人物はどんな方ですか?

 坂本龍馬にローマ帝国のカエサルですね。新しい時代を切り拓いていった人たちです。ECナビの会議室には、アレキサンダー、ソクラテス、竜馬、海舟――などと歴史上の人物の名前がついています。彼らから学ぶことは多いです。ちなみに今インタビューしていただいているこの部屋は「アレキサンダー」です。

--最後に、モチベーションについてお伺いします。創業の時は皆やる気があるけれど、大きくなってくるとそういうエキサイティングなモチベーションを維持するのは大変になってきますよね。これまでで効果的だったと思うことは何ですか?

 大きな組織ではなく小さな組織にして意思決定を自分で行えるように権限委譲していくことだと思います。あとは、時間や空間を共有できる合宿ですね。合宿は、四半期ごとのミーティングなども含めて近場の温泉に年15回以上いっています。こういう意見交換もオフィスではなく、違う環境でやる事も重要なんですよ。また、1対1(マネージャーとスタッフ)で話をする機会も多く取るようにしています。

 自分のモチベーションに関しては、毎日が楽しく嫌なことはすぐに忘れてしまうので落ち込むことはありません。世界を変えることをやりたいと思っているので、それと比較したら大抵のことは小さいことなんですよ。

--毎日ノリノリなんでしょうね。それでは最後の最後に、このインタビューで宇佐美さんと同席してくださった広報担当の江頭さんに,宇佐美さんの印象をうかがってしまおうと思います。

江頭氏:「うちの宇佐美は、フラーっとそこにいて常にエネルギーを放出している感じです。落ち込んでいる姿は見たことがないですね。ECナビには『遊びは真剣に、仕事は遊び心で』という掛け軸をかけているのですが、まさにその精神そのものです。バランスボールに座りながら仕事をしていたり(笑)」

--今日はどうも有難うございました。

 あ、そうだ皆さん。今日、僕はおそらくノロウィルスにかかっているかもしれないので、気をつけて下さいね。

--えー、本当ですか!全然元気そうなのに!じゃあ、帰ったらすぐにうがいをしないと!

(宇佐美さん、ノロウィルスには感染しませんでしたよ☆)

Venture BEAT Project
こだまん(児玉 務)

1997年日本アイ・ビー・エム入社。ベンチャー企業との協業、インターネットプロバイダー市場のマーケティングを経て、2000年よりナスダック・ジャパンに出向し、関東のIT企業および関西地区を担当。帰任後は、IBM Venture Capital Groupの設立メンバーとして参画し、その後退職し米国へ留学。パブリックラジオ局(KPFA)での番組放送の経験を得て帰国後の現在は、「“声”で人々を元気にする」をモットーにラジオDJ、イベント司会、ポッドキャスティングの分野で活動中。「Venture BEAT Project」プランニングメンバー。好きな言葉は「アドベンチャー」。

ブログ:「Edokko in San Francisco 2007

趣味:タップダンス、ビリヤード、会話、旅、スペイン語

特技:アメリカンフットボール、陸上競技100m