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 はてなが米国シリコンバレーに100%子会社、Hatena Inc.を設立してから約1年。先日、ついにHatena Inc.発の新サービス「はてなスター」と「はてなメッセージ」がリリースされた。

 さらに8月にも新サービス「はてなワールド」の公開を控えている。

 シリコンバレーでの試行錯誤が形になりつつあるなか、はてなの代表取締役であり、Hatena Inc.代表の近藤淳也氏に、この1年間に起きた変化、海外での活動状況、そしてこれからの1年間の展望を聞いた。

--改めてお聞きしたいのですが、そもそもアメリカにHatena Inc.を設立した目的は何だったのですか。

 最初は3つくらいあったのかな。えーっと何でしたっけ(笑)。順番があった気がするんですけど。グローバルなサービスを作って展開することと、現地のエンジニアとかシリコンバレーの人的な関係構築みたいなこと。あと既存のビジネスパートナーとしてもGoogleさんとか大きかったので、そこのUS資本との関係強化みたいな話と3つあったんですけど、ほとんどやってたことは新サービスの開発ですね。

 結局、向こうで立ち上がらないことには、ネットワーキングするにも話す内容がないという感じだったので。実質は新サービスを立ち上げることに専念していました。

--サービス開発はいつから始められてたのですか。

070725_hatena1.jpg近藤淳也氏

 広い意味で言えば渡ってすぐから始めていましたね。コンセプトを考えるのも含めて時間を取っていたつもりなんですけど、もう少し早く出したかったんですよ。

 遅くとも1年以内、本当は半年くらいでと思ってたのが、最近の流れというものをちゃんとキャッチアップというか、一回落ち着いて整理しようとしていて、いろいろ考えながら作り始めました。思いのほか時間かかっちゃったなぁというのはありますね。

--この1年の米国での活動に点数をつけるとしたら何点ですか。

 点数ですか、おもしろいですね(笑)。60点くらいですね。内訳は、必死でがむしゃらにやっていたというか、自分なりに努力をした点では、それなりにやってたと思うんですけど。一方でその成果はまだ何もないですし、特にアメリカへの働きかけというか、アメリカにいたからこそできたことは、ほとんどないと思うので。

 もちろん、(社外取締役の)リッチーの獲得や、現地での体制を整えつつあるというところでの進展というのはありますが、実質ビジネス的な展開というのはまだまだこれからなので、そういうことも含めてマイナス40点くらいかなという気がします。

--シリコンバレーという環境は近藤さんにどのような影響を与えましたか。

 アメリカならではということと、案外東京を離れればどこでもよかったという要素。両方あると思うんですよ。まあ東京を離れればっていうのは、今のはてなサービスがどういう位置づけにあるのだろうかとか、これからインターネットがどういう方向に行くのかとか、そういうことをある程度俯瞰して見れたことがすごく大きいし、あとは東京にいたときはすごく忙しかったので、クリエイター的な作業に集中できる環境としての「東京じゃない場所」っていう意味は大きかったと思いますね。

 アメリカならではという話は、他の場所にも行ってみないとわからないんですけど、プラスには働いてると思うんですよ。それはやっぱり普通にシリコンバレーの新聞読んでたら、「マウンテンビュー市のGoogleが…」って書いてあるんですよね。YouTubeが買われたっていう話だって、「サンマテオのYouTubeがマウンテンビューのGoogleに買われました」って朝刊に書いてあるんです。

 そしたら近所のお兄ちゃんたちが楽しそうなことやってるみたいな雰囲気で、別にああいう大きな会社じゃなくてもスタートアップのベンチャーなんかもそういったメディアに出てくる。そういう人たちとの距離感っていうのは全然違いますよね。見てると自分でもできるんじゃないかとか、やってみたいっていう気持ちはすごくリアルに持つことができて、そういう心理的な面はすごく大きい。

 ただ、客観的に自分の行動をビジネス的に見たときに、どれだけ周りとコンタクトを増やしていくことに活かしていくかは、これからかなという感じはします。

--いま、アメリカの体制はどうなってるんですか。

 3人常駐しています。僕ともう一人エンジニアがいて、あとは僕の妻がいて、基本は3人なんですよ。あとはたまに日本から出張で人が来ることもあります。取締役会は梅田(望夫)さん交えてUSでやっているので、取締役は半年に1回から3カ月に1回くらいの頻度で来てます。僕も平均すると3カ月に1回くらい日本に帰ってきてます。

 梅田さんとは僕がアメリカに行ってからは相当密にお会いしています。別に出社してきて何かをするというわけではないんですけど、折に触れていろいろ構想などを語り合ったりとか、ブレストみたいなことをやったりだとか、梅田さんの話を聞かせていただいたりとか、けっこうな頻度で会ってます。

 リッチーは子供が産まれて、そちらに時間を使いたいということでGoogleを退職しているので、毎日会社に来るとか、業務をやってもらうってことのはないので、今はアドバイザリー的にたまに取締役で集まったりとか、ちょっと意見聞きたいときに来てもらったりしてますね。

--シリコンバレーでは、近藤さんの普段の1日のタイムスケジュールはどうなってるんですか。

070725_hatena2.jpg

 どんな生活をしてるのかってことですよね(笑)。だいたい5時か6時くらいに起きて、パソコンつけますよね。

 パソコンをポチっとつけて散歩に行くようにしてるんですけど、ちょっと頭を整理するために町内を一周して帰ってくる。

 それで8時か9時くらいまで日本側の仕事というか、キャッチアップと指示を出すみたいなことをやるんですよ。

 朝の6時だと日本は夜の10時なので、だいたいみんなの業務が終わって1日分の業務内容がたまっている。それをまず、ばーっと読んで僕が判断したり、答えなくちゃいけないことをメールします。だいたい2、3時間かかっちゃう。

 それでようやく朝ご飯を食べてそこからオフィスに出勤します。10時か11時くらいから、今度は日本が起き出すのが夕方の5時くらいなので、それまでがサービスを作る時間。日本は完全に深夜なので本当に何にも割り込みがないので、やっぱり集中できるんですよね。それで5時以降に日本とのミーティングが始まって7時か8時みたいな感じのパターンですかね。

--会社全体としてはどうですか。東京との距離感もありますし、開発スピードなど変わったところはありますか。

 良くなってますね、むしろ(笑)。京都の第一期、東京の第二期で、今が第三期だとしたら、生まれ変わる時期に来てるなぁという感じはしますね。まだ外には見えてないかもしれないですけど、相当中身は変わりつつあるという感じはしていて、それはすごく良いと思ってますね。

 逆に離ればなれで大変で、サービスも一時に比べるとどんどん伸びているわけでもなかったけど、この苦境を一緒に乗り越えようみたいな感じの方が強いです。

--この後リリースを控えている「はてなワールド」はどのようなサービスですか。海外での事業化に結びつきそうですか。

 内緒ですよ、内緒(笑)。時期は8月には出したいと思ってまして、ちょっと遅れちゃってるんですけど、その最終の詰めをやってるところですね。

 正直、事業化できるかという理由で決めているわけではないんですよね。これを今やると儲かりそうだからやっているというよりは、いろいろ考えた中でこれならユーザーさんに使っていただけるんじゃないかっていうのを第一の理由に作っているので。いろいろ可能性はあると思いますけど、当面、何か具体的に「こういうことはすぐにできる」みたいなことはないかもしれないです。まあワールドって言ってるくらいなので(笑)、ちゃんと世界から使えるようなものにしたいなっていうのはありますけど。

--2011年までに世界で1000万ユーザーという目標を掲げてますが、それに向けたロードマップはありますか

070725_hatena3.jpg

 まあご想像されてるかと思いますけど、ないですよね(笑)。

 ただ、一応シリコンバレーでいろいろ考えてるなかで、僕自身は一つコンセプトというか、見えてきたものがあります。

 それは不確定要素があまりにも多い分野と、ある程度見えてきている分野があるなってこと。

 見えてきてるのは何かというと、テキストをベースとしたサービスはやっぱり成熟期を迎えつつあると僕は思うんです。それはパソコン通信から始まって、個人ホームページができた時からメルマガもあるし、ブログとかも出てきてますけど、要は文字主体で何かをするっていうことに関しては相当いろいろな試みがなされて、だいぶ見えてきてますよね。一方で動画とかはまだ全然見えないので、ちょっとフェイズが違うだろうと思ったんですね。

 そのなかでテキスト主体のサービスというものは、ネットが出てから十数年の中で僕らも6年間の経験があるので、けっこう経験値としてもたくさん持ってる。要は人がやりたいこと、根本的な願望みたいなものがあると思います。例えば人が見るところに自分の言葉を書いてみたりとか、逆に見えないところでコミュニケーションしたいとか、普通に事務連絡ができないと困るとか、要素がいろいろあるじゃないですか。

 そういう要素を一回整理して、はてなのアカウントを一個持っていれば、ブログはこれだけど、SNSはこれだとか、他のサービスをいろいろ組み合わせなくてもワンストップで使えるようにするコンセプトもあるだろうと思ってはいるんですよ。例えばそれを本気で作るのであれば、数年はかかるだろうと思ってますけど、じゃあこれだけをやって1000万ユーザーなのかって聞かれると、それは状況によってわかりません。それこそ今度出すワールドもどうなるかわからないっていう答えしかできないですね。

--今年に入って力を入れてきた携帯電話向けサービスに対してはどういうお考えですか。

 これは日本特有の事情だと思うんですけど、やっぱりモバイルユーザーの拡大、つながりっぱなしみたいな状態に近づいているなかで、ユーザーの増加というか変化は無視できない段階に来てると思うんですね。ビジネス的にも伸び盛りという部分がありますし。

 だから最低でもちゃんと一通りのものは使えるというのはまず大事だろうと。そこからの戦略については、携帯電話特有の若者文化に合わせて今までとは違うものをそれだけのために作っていくことではないと思うんです。ただ、僕たちがはてなっていうサービスで実現したい便利さには、携帯電話を使ってこそ表現できる部分っていうのが絶対あると思うんですね。だから一つの道具としてちゃんと使っていただくためには、ドコモさんの公式サイトに入れていただいたりしながら、きちんと使えるサイトとして整備していく必要があるっていう位置づけですね。

 僕は持ってないですけど、iPhoneが出て、今後一つあるのが、携帯向けのサイトで行くのか、PC向けのサイトで行くのかっていう2つの可能性。それはまだ見えてない気がしてます。そういうのを見ながら、別に携帯電話は絶対やらないとか、携帯電話をやるとかではなくて、全部トータルで便利にしていこうとは思いますけどね。

--日本のはてなのサービスで、これは世界でも通用するだろうと思うものはありますか

 うーん、どうでしょうね。例えば、似たようなものが出てないサービスも無くはないと思っています。例えばブログにキーワードをリンクするとか、スターもまったく同じようなものはないんじゃないかとか。ただ、それを翻訳すれば受け入れられるかというと、それは別問題だと思いますし、そういう意味では新しいもので挑戦した方がいいってことも考えられる。

 なので、まあスターから出してるってことは、ここを入り口として攻めていこうっていう決断をしているんです。ここからは本当に試行錯誤の連続だと思います。当たるまでやるってことかなと思うんですけど(笑)。

--「はてなスター」は褒めることしかできないサービスと謳っていますが、どういう思想から生まれたものなのですか。

 「褒めることしかできない」って書いたのは大きくとられ過ぎたなぁって思っていて、失敗したかなと(笑)。けっこう自由に使ってもらえればっていう感じだったんですけど、一つ思ったのが、ブログがまだ完成してないというか、全然改良の余地があるということです。

 というのは、今は“本当に強い人”しかブログを書けないじゃないですか。変なことを書くと、突然すごい人たちがやってきてお祭りになって、なんかこう「別にあなたたちと喋りたくてこんなことやってるんじゃないんだけど」っていうようなところまで土足で上がっちゃうみたいなところがあって。

 確かに普通の人でインターネット文化とかには興味ないけど、ちょっと日常生活のおもしろいこと書きたいって人が「SNSの方がいい」っていうのはわかる気がするんですよ。でもやっぱりどこかでブログにこだわりがあるのは、そこに籠もっちゃったら他の人には何も届かないから。

 インターネットの良さってどこかで世界の人につながる可能性があるっていうところだと思うんですね。そこがどうしても諦められなくて。

 わざわざ外に書くようなことじゃないってことでも気軽に書いて、さらに良いことがそこで起こるっていう連鎖反応みたいなことが起こせれば、もう少し使ってくれる人も多くなるだろうし、世の中にとってもいいんじゃないかなと根本的に思ってるんですね。

 そのなかで今の問題は、パブリックなとこで書くと怖い思いをするとか、よくわからないことを言われるみたいなことだと思うんですけど、でもそれが全部なくなればいいとは思わないんですよ。やっぱり批判的な意見は建設的であることも多いし、いろいろな立場の意見があることはいいことだと思うんです。

 少なくとも、例えば普通の文章を書いてて、読む人は「へーっ」て思うくらいの感じだと思うんですね。そのときに「へーっ」て思ったという事実がその人に届いてれば、そんなに辛い思いをしなくても済んだはず。そういうことがすごく多い気がしてたんです。

 最後まで読むってすごいことじゃないですか、人の書いた文章を。これだけ情報が溢れていて、文章なんていくらでもある中で、たまたまその人の日記を上から下まで全部読んだっていう事実だけでも本当にその人に届けるべき出来事だと思ったんです。それが今は可視化されてなくて、そういうことをちゃんと目に見えるようにしたいと思って、はてなスターを作ったんです。

--ブログや日記に強いこだわりがあるんですね。

 そうですね。こだわりがありますね。でも、いわゆるブログっていう名前で規定される形態にこだわりがあるわけじゃないんです。別に世界中に公開することがいいとは思わないんですけど、自分の行動範囲の一歩外まで見えるようにするだけで、自分がインターネットの中でやってる活動の価値が増えるじゃないですか。

 例えばある映画を見て「楽しかった」って書いただけでも、「実は本当に同じようなことを自分も思ってたんです」っていう人の目に留まる可能性があるかもしれない。それはすごくいいことじゃないですか。それはリアルの世界ではできなかったことがインターネットだからできるようになったという大きな可能性だと思うので、そこは諦めたくないですよね。

--次の1年間はどういったことをやっていきたいですか。

 本来、今はアメリカにいるはずだったのが、ビザの取得で伸びちゃって日本にいるんですけど、向こうに戻ったら、アメリカのユーザーさんに本当にゼロからスタートするつもりでサービスを出して試してみたいと思っています。

 今でも英語サイトは出てますし、普通に使おうと思えば使えるんですけど、ほとんど立ち上がってない状況にあって。でもそれを初心に戻って問いかけていきたい、チャレンジしたいって思いますね。1年間というと、それだけで必死になるんじゃないですかね。

 会社を京都で作ったときが2001年でしたけど、アンテナが出て、日本でのユーザー数が3万人になるのに1年くらいかかったので、それくらいはかかっても仕方ないという気はしますけど。でもできなくはないと思うんです。それを頑張りたいです。