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2007年7月6日 18時19分

我々が目指すべきは世界展開、各国を心でつなぐ「BEAT Japan」へ

勝屋久(Venture BEAT Project)、文:島田昇(編集部)

 「ネット時代到来」の意味が込められた老舗ネット企業のネットエイジグループは2007年7月、「ベンチャー」と「イノベーション」を軸とした次世代型グローバル企業を標榜する「ngi group」として再出発する。

 ネットが特別な存在だった時代は終わりつつあり、今後の企業成長を目指すには、ネットに限らない幅広い視野を持ったグローバル展開が必要と判断したためだ。

 Venture BEAT Project発起人のひとりで、ngi group取締役代表執行役社長CEOの小池聡氏は、BEATが歩む次のステップにおいても、「我々が目指すべきは世界各国と本当の意味で深くつながっていけるBEAT Japan」と提唱する。

情報共有がベースの個の集まり

--小池さんにはVenture BEAT Project発足当初からご支援いただいていますが、なぜ我々の活動にご賛同いただけたのかを改めて教えて下さい。

 わたしが勝屋さんからVenture BEAT Projectのお話を聞いたとき、いくつかお願いしたことがあります。それは、

・きちんとしたビジョンとインテグリティーを持った人でなければBEAT MASTERにしないこと

・ビジョンを共有できるのであれば経営者以外の役職でも入れるようにすること

・ナレッジや情報をシェアすることでお互いを高め合い、ベンチャー業界の発展に寄与することの重要性を理解し実践できる人の集まりにすること

──の3点です。

画像の説明 小池聡(こいけ・さとし)氏:電通とGEの合弁会社の駐在員として90年代初めより米国で各種IT、マルチメディア、インターネット・プロジェクトに従事。シリコンアレー、シリコンバレーを中心にネットビジネスの投資・インキュベーションおよびコンサルティング事業を展開。iSi電通アメリカ副社長、iSi電通ホールディングスCFO兼ネットイヤーグループCEOなどを歴任。1998年にネットイヤーグループをMBOし独立。1999年に日本法人ネットイヤーグループを設立。日米IT・投資業界での20年以上の経験を生かしベンチャーの育成に注力。

 日本でもさまざまなベンチャーの団体がありますが、その中で最も重要なことは、真面目な思いを抱いて事業に取り組んでいる経営者、あるいは経営にたずさわる人同士が、共通認識を持った上できちんとつながっているかどうかだと思っています。

 ですから、単に金持ち社長たちの仲良しクラブであったり、共有すべきビジョンを持っているのに社長ではないから参加できないような集まりであれば、Venture BEAT Projectをやる意味がないと思ったんです。

 それに、これまで日本にいて常々感じていたことは、「日本人は自分だけが持っている情報やノウハウを、自分だけで囲い込むことによって、ほかの人との差別化を図ろうとする」ということでした。ところが90年代に米国に行って、米国人は日本人と全く異なる価値観を持っていることに驚いたんです。

 米国にはベンチャーが集まるような団体はたくさんあるんですが、そこには競合になるような事業者がたくさん集まっていて、「こんなことを言ってもいいのか?」と思うくらい、みんながみんなで惜しみもなく情報を出す。彼らの考え方は、「情報を囲い込むことによって優位に立とう」というよりは、ある意味で「お互い情報を出し合って全体を底上げしよう」という思いが強いんです。みんなで情報を共有し、最終的にみんなでwin-winになろうと。

 それを体感したわたしは、「情報を囲い込むことは価値を生まない。どんどん出していこう」と考えるに至ったんです。しかも、今の情報の流れは非常に速いので、囲い込んでいたつもりの情報もすぐに陳腐化してしまう。逆に、その情報が高い価値を持っているうちに出した方が喜ばれ、さらにこちらもそれと同等、あるいはそれ以上にいい情報をもらえるということにもつながります。

 ですから、そういうコミュニティーを日本で作るということは、とても大事なことだと思います。それができるのであれば、喜んでVenture BEAT Projectに参加し、支援したいと思ったわけです。

 現在、Venture BEAT Projectには政府官僚の方々も参加していますが、彼らはそれぞれの肩書きで参加しているのではなく、それぞれが自らの意志を持った個人として集まってきている。そういう意味では、「個」の集まりであるというところが素晴らしく、そのポリシーはどんなことがあっても変えないでいてもらいたいですね。

 もっと言うと、Venture BEAT Projectの参加者は、彼ら個人が会社での立場が変わったり、あるいは会社を辞めるというようなことになったとしても、変わらずにつながっていけるような活動をしてもらいたいのです。

 ですからたとえば、どんな大企業が「スポンサーになるからわが社のためにこういうことをしてもらいたい」と提案してきても、決して相手にしてもらいたくないと思っています。

恐れず大海に出るための「目」となる

--ネットエイジグループから新たに「ngi group」へと組織変更されますが、どのようなビジョンと狙いが込められているのか教えて下さい。

 世界中の誰もが言っていることですが、「有望なベンチャーの存在なしに経済の発展はありえない」と思っています。つまり、ベンチャーの動きを止めることは、日本経済の動きを止めてしまうことにもつながるのです。

 米国はどんな不況下においても、毎年1000億円企業が生まれています。それが日本ではどうでしょう。むしろ、国際競争力が年々落ちていくという傾向にありますし、ベンチャー企業自身も日本にとどまらず国際化していく必要があります。

 ですから、我々は今後、単なる日本のネット関連・投資企業ではなく、「ベンチャー」と「イノベーション」を軸としたグローバルな次世代型の総合商社のようなポジジョンを狙っていくつもりです。21世紀はアジアの時代と言われていますが、日本を中心としてアジアと繋がることができれば、それは世界と繋がることと同義なのです。

 わたしはアジアの経済動向をよく見ているのですが、彼らの勢いはすごいですよ。特にベトナムなどは本当に勤勉かつ純粋な人が多く、みんな朝6時から猛烈に働いている。そんな状況下で、日本だったら東証マザーズに上場できてしまうような企業がたった1年でできてしまっている。日本とは活気から市場成長性から何から何まで、全く違います。

 今米国では、投資などは日本を頭越しにして中国を軸としたアジア圏で積極展開しています。このままでは、日本は置いて行かれてしまうでしょう。ですから、日本ではベンチャーの信頼回復とベンチャーがもっと思いきった展開をしやすい環境づくりが重要だと考えています。

 そのために考えているのが、オランダの童話作家レオ・レオニが書いた作品に由来する「スイミー戦略」です。

 スイミーはいつも大魚にいじめられ、海の隅で小さく暮らしている小魚たちの物語です。その小魚たちの中で特に好奇心の強いスイミーはある日、大魚の中を潜り抜けて大海へ出ると、そこには竜宮城のような世界があることを知ります。今までに見たことのないような、自由と幸せに溢れる世界です。

 スイミーは大海へ出れば得られる自由と幸せの世界を知り、「みんなで大海に出よう」と提案しますが、小魚たちは怖がって誰も行こうとはしない。そこで頭のいいスイミーは、自分が「目」になり、みんなで大魚の形を作って大海に出るという方法を思いつきます。

 このスイミーのアイデアによって小魚たちはハッピーライフを手に入れるというわけなのですが、我々もこのスイミーの「目」になろうと思っています。

 日本経済は尖がった時期もありましたが、それは小魚一匹一匹の尖がった存在であって、小魚一匹がどんなに真面目に頑張っても、戦略なしに無謀に大海に飛び出して行ったのでは討ち死にしてしまいます。だからわたしたちがスイミーとなってビジョンを共有するベンチャーたちと外に出て行き、世界の大企業に対しても互角に戦えるコンソーシアムを作っていこうと思っています。

 7〜8年前に、わたしと西川(ngi group取締役会長の西川潔氏)は日本にもシリコンバレーを作ろうと「ビットバレー」活動を推進しました。この活動は国内のネットベンチャー市場を活性化させるのに大きな役割を果たしましたが、今度はアジアを舞台にした活動をしようとしています。

 実は水面下ではさまざまなことをやっていて、例えば世界中が注目している中国やベトナムなどアジアの急成長市場の内部にも深く入り込んでいます。

 先日、北京の人民大会堂で開催された「日中韓若手経済人サミット」では、日本の若手経済界を代表してわたしが団長を務め、中国側は政治経済の中枢たる人材を排出する中華全国青年連合会(胡錦涛主席の出身母体)の主席がホストをしてくれました。

 中国ではベンチャー企業がいかに新規性の高いサービスなどをリリースしても、政府の規制にビジネスが左右されてしまうリスクがあり、信頼できる中国人パートナーや政府とのパイプは必須だと考えています。そういう意味で国の中枢にリレーションがあることは強みです。

 ベトナムとも優秀な技術者が集まり、科学技術大臣を排出し続けているハノイ工科大学と提携しています。

 現在、ベトナム株ブームですが、それは資源や社会インフラ系の産業であって、新しい革新的なものではありません。ただ、まだ市場としてはまっさらで勢いもあり、ここで我々のノウハウを生かす機会は十分にあると思っています。

 そのほかにも、さまざまな急成長市場にコミットしています。

 旧ネットエイジグループはこれまで、何をやっている会社か分らないとよく言われてきたし、ngi groupになってもますます分らないと言われ続けていくかもしれません。しかし、わたしはそれでいいと思っています。

 例えば、日本の総合商社って何をやっているか分からないですよね。でも必ず新規産業やビジネスチャンスのあるところでは姿を現して大きなビジネスを展開していく。そういう業態は、これからも時代の潮流に合わせながら存在し続けていくでしょう。

ビジネス基盤の構築は条件ではなく信頼関係

--我々の今後の活動に期待していることがあれば教えて下さい。

 今思っていることは、世界とも交流していきたいということです。Venture BEAT Projectにも外国人が参加すべきですし、わたしの方でもメンバーの海外進出はお手伝いしたいと思っています。

 前述の通り現在、IT関連業界の大きな潮流として、米国だけに限らない、特にアジア圏を中心とした国際的な人と人のつながりの中で新しいビジネスがどんどん生まれています。そのきっかけとして、国や経済界が支援している団体が大きな役割を果たすというような事例もあり、Venture BEAT Projectにおいても、そういった国と国の架け橋になるような活動をしてもらえればと思っているんです。

 ビジネスの基盤を作る上で最も重要なことは、会社同士のメリットをいかにして出すのかという「条件」ではなく、担当者同士の「信頼関係」です。

 たとえば、日本と中国は今も政府間ではさまざまな問題を抱えていますが、中国もこちらのことを知らないし、僕らも彼らのことをきちんと理解してはいない。にもかかわらず、政府間の問題を前提にお互いのことを理解しようとせず、心と心で会話をしようとしなければ、本当の関係は築けない。そうして信頼関係も築けずに、「中国は金の匂いがするから」といって条件面だけを見てビジネスをしようとしても、そんな状態できちんとしたビジネスが成り立つはずがないんです。

 特に中国においては、お互い戦前や戦時中の過去を引きずっているところもありますが、戦後の我々が前向きなことをやっていかないと、日本の未来はない。

 また、「人件費が安いので安い労働力を得られる」ということを理由に、日本企業が積極的にベトナムとのビジネス展開を図っています。しかし、低賃金という条件ばかりに目を向ける関係に疑問を感じ、わが社ではハノイ工科大学から日本で働きたいと考えている学生を受け入れることにしました。すると、「これまで日本に興味はあるが分らないことばかりで不安だ」と言っていた学生たちが、一生懸命日本語を勉強し始めたんです。

 こういう信頼関係の下に、お互いのことを知ろうとし始め、そこから本当の意味でのビジネスが生まれていくのではないでしょうか。もっと言うとそういう関係を構築できなければ、日本だけがアジアの中で、さらには世界の中でも孤立してしまうことになりかねない。このことにわたしは、強い危機感を抱いています。

 ですから、我々は今後、「BEAT Japan」として、これを軸に世界各国と本当の意味で深くつながっていけるような活動へと、発展させていきたいと思っているのです。

勝屋久の氣づき(Venture BEAT Project)

 今回の取材で小池氏が強調していたのは、「国や民族などは関係なく、世界の人達と心と心が繋がり、そして信頼関係をつくることがこれからは大切で、日本人はもっと世界を視野にいれるべきである」ということです。

 また、今まで日本の大手企業が海外の現地法人で現地の人々を単なる労働力としてのみコントロールしようとし、うまくいかなかったことにも言及し、「これはまさに心と心がつながっていなく、結果、信頼関係ができないケース。まずは相手をパートナーとして対等に見て、与えることから始めるべき」と語っていました。

 わたしもこれには全く同感です。この8年間、多くの外国の人たちと接してきました。その中で最も重要なことだと確信しているのは、お互いに心を開き、ハッピーなビジョンを描いたりして価値観を共有することです。その上で、ようやく本当の信頼関係は生まれます。

 論理的に相手を負かしたり、資本力によってコントロールしようとしても、決して良い結果にはならないのです。

 ngi(Next Generation Innovator) groupは今後、さらに精力的に海外と繋がっていくことでしょう。我々もテクノロジー系ベンチャー企業の「化学反応」を促進する存在として、さらに一段上のステップを踏むためにも、そろそろ「BEAT Japan」という呼び名を意識し始めてもいい頃なのかもしれません。

IBM Venture Capital Group ベンチャーディベロップメントエグゼクティブ日本担当
勝屋 久

1985年上智大学数学科卒。日本IBM入社。2000年よりIBM Venture Capital Groupの設立メンバー(日本代表)として参画。IBM Venture Capital Groupは、IBM Corporationのグローバルチームでルー・ガースナー(前IBM CEO)のInnovation, Growth戦略の1つでマイノリティ投資はせず、ベンチャーキャピタル様との良好なリレーションシップ構築をするユニークなポジションをとる。総務省「情報フロンティア研究会」構成員、経済産業省「Vivid Software Vision研究会」委員、New Industry Leaders Summit(NILS)プランニングメンバー、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小ITベンチャー支援事業」のプロジェクトマネージャー(PM)、富山県立大学MOTの講師などを手掛ける。

また、真のビジネスのプロフェッショナル達に会社や組織を超えた繋がりをもつ機会を提供し、IT・コンテンツ産業のイノベーションの促進を目指すとともに、ベンチャー企業を応援するような場や機会を提供する「Venture BEAT Project」を手掛けている。

ブログ:「勝屋久の日々是々

趣味:フラメンコギター、パワーヨガ、Henna(最近はまる)、踊ること(人前で)