インタビュー
別井貴志(編集部)、島田昇(編集部)、撮影:赤司聡
5月10日。ネット業界に衝撃が走った。老舗ネット関連企業ネットエイジグループが、大幅な組織改正と人事を実施すると発表したためだ。
企業統治のさらなる徹底を目指して委員会設置会社に移行するとともに、機動性重視の戦略を実現するための組織改正および社名変更を行うというのがその骨子。
しかし、業界関係者の耳目を集めたのは、創業者である西川潔氏が代表権のない会長に就くという内容の人事だった。
ネット革命の夜明け以前から、ネット事業を志す者たちの「梁山泊」的な存在だった同社。「ngi group」として生まれ変わらなければならなくなった経緯、新たに示した方向性を導き出した真意は何なのか──。
6月22日に行われる株主総会の承認を経てそれぞれ新たに取締役会長と取締役代表執行役社長CEOに就任する見通しとなった、同社代表取締役社長CEOの西川氏、代表取締役CEOの小池聡氏に聞いた。
小池:ネットエイジはもともと、社外取締役が多く、欧米並みに企業統治をきかせた透明性の高い経営を目指してきた会社です。これを徹底させるため、上場前から委員会設置会社への移行を検討してきました。
西川:実務面の決定事項が多くなる一方で、月1回の取締役会を待たなければならないのでは、機動性に欠けてしまうという問題があります。そのためには、執行役へ大幅に権限を移譲させる必要性があったのです。
小池:つまり、企業統治と機動性の問題を解決するため、経営と業務執行を完全に切り離したわけです。この時期だったのは、単に株主総会に間に合わせるためで、恣意的な意図は全くありません。
研究開発分野に特化した仕事に専念すると語る西川潔氏
西川:4年間、共同代表制で取り組んできました。これは良い面もありますが、1人でできることも2人でやるという、無駄な時間が多い側面もありました。
わたし自身の資質としては、どちらかというと実務より発想力を生かす仕事に向いているので、ラボ(研究所)的な活動をした方が、この会社の企業価値が高められると思い到りました。また、単純に最終意思決定者は1人であるべきだとも思いました。
小池:今回の経営陣刷新は、グループ全体の事業の位置付けを見直し、主力のインターネット事業とファイナンス・インキュベーション事業の相乗効果をさらに高めたいという狙いが大きいのです。
最終意思決定者はどちらがやっても良いとは思うのですが、西川は創業時からアイデアと技術で新しいサービスを創るというところに軸足を置いているので、であればそちらに専念してもらった方がいいだろうと。
そのため、ネットエイジは世界の英知を集結したラボとなるため、相当すごいことを考えています。
小池:そこは誤解の多いところですが、全く逆です。業績的にはミクシィの上場による売却益が寄与し、ファイナンス事業の収益が大きかったのは確かです。
しかし、今期(2008年3月期)はミクシィの大きな含み益があるにもかかわらず、前期と比べ増収減益の業績予想を発表しました。これは、前期はミクシィ上場の影響で予想以上に利益が出てしまったため、今期は正常な利益水準に戻ったという意味とともに「投資事業依存から脱却する」というメッセージが込められています。
そのためにまずは、地に足のついた数多くの事業をこれからもっと伸ばしていきます。また、我々は投資先に海外を意識した経営を行うよう助言しているのですが、当の我々が海外に出て行かないのでは「言っていることとやっていることが違う」ということになる。海外、特に成長著しい中国を中心としたアジアを視野に入れた事業展開を積極的に実践していくための組織改変でもあるのです。
西川:当社は純粋持ち株会社の下に投資事業も含めた革新的な事業を多数保有しており、これをさらに強化していくということなので、投資事業だけに軸足を置くということでは全くありません。
西川:原点回帰という意味合いがあります。確かに、「ngiラボ」という名称にしても良かったのですが、「ネットエイジ」という社名は、これからはネットの時代になるというビジョンを込めて約10年前に付けた社名ですが、ネットエイジはネットベンチャーの梁山泊として革新的なアイデアと技術で様々なビジネスを創出してきました。そのビジョンの原点の名前を残したわけです。
他社のラボはWeb 2.0的なサービスを合宿形式でゴリゴリ創っていくイメージが強いのですが、我々はさまざまなルートを使って世界レベルの研究をしている研究者たちにアクセスし、さらには「人」そのものを引き入れるような、そういうことができる人脈もある。ですから、ほかのラボとは一段上のことを実践していきたい。
研究テーマについても、インフラを含めた幅広いネット関連技術を視野に入れており、中心メンバーにも橋本大也氏が入ることになっています。彼を中心とし、さまざまな可能性を含めたテーマは設定していきます。
「アジアを押さえることは世界を押さえることと同義」と語る小池聡氏
小池:西川はこれまで、代表者として経営にかかわるさまざまな業務を抱えていたわけですが、今回の組織改正により、研究開発にかなり集中した仕事ができると考えています。
ラボは今後の弊社にとって、非常に重要な役割を担う存在なので、西川はそこを、わたしは経営執行と戦略面へさらに重きを置き、役割分担していきます。
「取締役会長」と聞くと、隠居する印象を持たれるのかもしれませんが、西川は逆に今以上に忙しくなります。
西川:今は上場もしましたし、これまでやりたくてできなかったさまざまなことがやれるようになります。目指すは国際レベルで一流の研究所に成長させることです。
小池:純粋持ち株会社はある意味、「人」「モノ」「金」に投資してリターンを最大化するというベンチャーキャピタルに近い役割を担っています。わたしがやるのはまさにそれで、そのための戦略策定と意思決定に集中していきます。
西川:内紛ではないです(笑)。確かに、ここ数カ月間、会社が将来目指す方向性について議論を重ねてきました。また、お互い違う人間ですから、方向性に違いがある部分もありますが、そこはやはり長年一緒にやってきたバディ(仲間)として、(小池氏とは)「会社をどうやって良くしていくのか」という共通意識は変わりません。さまざまな方向性を検討し選び抜いた末に、「これがベストだ」ということになったのです。
わたしと小池というよりは、インターネット事業とファイナンス・インキュベーション事業のコンフリクトやセクショナリズムが出始めてきました。しかし、それは今回の体制・組織変更で一気に解消し、社員も一致団結し、非常に良い状態になりました。
小池:社内は非常にポジティブです。これまでも相乗効果は出ていましたが、「両事業がそれぞれ頑張っている」という状況だったので、それが今回の組織改正によってようやくベクトルが一緒になったということです。あとは一気に走るのみです。
小池:90年代前半にネットの存在が広く知られるようになってから「ネットはビジネスにならない」という議論が各方面で起きましたが、今では大きな社会インフラの1つになりました。一方、私は80年代からネットを活用し、1993年のモザイクの出現に大きな衝撃と可能性を感じ、その後のネットビジネスにフォーカスしていったわけですが、それと同じくらいの可能性を感じている分野があります。当社がnext generated internet(次世代インターネット)と位置付けているバーチャルワールドである「3Dインターネット」の分野です。
日本では「Secound Life」の名称だけが先行して騒がれていますが、わたしはこれを単なるゲームの延長線上にあるものではないと考えています。初めてブラウザが登場してネット世界の可能性が大きく拓けたのと同じ衝撃が、こうしたバーチャルワールドの中では起ころうとしているのです。
実際、当時ホームページが次々と立ち上がったのと同じように、すでに世界中の企業がバーチャルワールドに進出し始めていますし、その制作会社やいくつかの関連事業会社に弊社は出資もしています。具体的なお話をするわけにはいかないのですが、そのほかにもさまざまな視点においてこの分野では先行しています。
もう1つ海外という意味で言うと、アジア展開があります。中国、ベトナムなどの急成長市場には相当深く入り込んでいて、売り上げ比率も海外展開によるものが半分以上になるという時代はすぐに来ると思っています。
我々は今後、単なる日本のネット関連・投資企業ではなく、「ベンチャー」と「イノベーション」を軸としたグローバルな次世代型の総合商社のようなポジジョンを狙っていくつもりです。国籍や人種にこだわらずラボも世界中から英知を集結するつもりですし、グローバルな視点で戦略策定と意思決定を迅速に行っていきます。21世紀はアジアの時代と言われていますが、日本を中心としてアジアを押さえることができれば、それは世界を押さえることと同義なのです。
Web 2.0ブームの先、アジア展開など今後の「ngi group」の将来像について語る両氏
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