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2007年4月26日 17時12分

我々は虚業ではない--「ギーク」と「スーツ」がコラボする新生ライブドア

島田昇(編集部)、小林 ミノル、鳴海淳義(編集部)

 新生ライブドアがスタートした。

 元社長の堀江貴文被告が築き、壊していった「ライブドア」ブランド。ライブドアグループの事業会社となり、ネット事業を軸に展開するライブドア社長に就任した出澤剛氏は、「ライブドア事件」からこれまでの激動の時の中で何を思い、そして今後何を目標に同社を導いていくのか──。

 海外展開も視野に入れた技術力の強みを前面に押し出す出澤氏と、技術領域を指揮する同社執行役員CTO(最高技術責任者)の池邉智洋氏に聞いた。

健全なベンチャーに立ち戻る

--出澤社長は、今回の社長就任前からライブドアのメディア事業を統括されていましたが、利用者離れや社員のモチベーション維持という面において、相当な苦労をされてきたと思います。どのような戦略でここまで漕ぎ着けたのでしょうか。

出澤氏:事件当時は対症療法じゃないですけど、目の前のことを右から左へ流してという、交通整理をずっとやっていた状況でした。全方位的に事業を展開してきたこれまでの戦略を捨てて、事件前はずぶずぶだったコストの見直しを行って、ニュースとブログとモバイルの三本柱で行くと宣言をしたのが、2006年9月の初頭ぐらいですね。

 堀江さんの時代の「目先の収益よりトラフィック拡大が先」というゲームのルールを変えたんです。社員研修で、「“対ヤフー”じゃなくてこっちだよ」という話をして、「インターネットメディア事業単体で収益を出さなければならない」ということを、社員全員で確認し合いました。

 もともと堀江さん自体、数字に落とすタイプではなくて、“世界一”とか“売り上げ1兆円”とか大きい事を言って、「あとはお前らで考えて頑張れ」というタイプだったので、細かな戦略を練り直したり、数字への落とし込みをちょっとずつやってきたという感じですね。

--事件前と事件後で、クライアントとの関係に変化はありましたか。

出澤氏:我々にとっての広告クライアントは代理店さんになるので、接点は変わっていません。その他、データセンター事業で言うと、4000社ぐらいの法人クライアントがいるわけですが、安定した運用が評価を受けているので、顧客離れは起きていないんですよ。広告と違って「ライブドアだから…」ということにはなりませんから。

 広告の売り上げも、4月の段階で事件前の7割まで戻ってきましたし、大手配給会社の映画キャンペーンも決まったりしたので、売り上げも回復しています。事件前水準も射程に入っていて、8月か9月には単月で黒字化するメドもたっています。

--ライブドアホールディングスとライブドアに分社して変わったところは。

出澤氏:一番良かった点は、ゴチャゴチャになっていた業務が整理されたところでしょうか。いろいろな会社を管理する持ち株会社としての側面と、インターネットサービス業の側面が一緒くたになってましたからね。

 実は、ライブドアという会社は、データセンターの運営もしていて、ユニークユーザーも伸びている会社で、新しいサービスを今後もリリースしていくんだよ、ということを知ってもらう良い機会になったと思いますし、立ち位置が明確になって、やっと新しいスタートラインに立てたことで、我々のマインドもまたリセットされたと思いますね。

--ベンチャー企業として生まれ変わったということですか。

出澤氏:少なくとも私はそう思っています。弊社は設立10年のインターネットをやっている社員300人のベンチャー企業なんです。ただし、ベンチャーの持っている、リスクテイクして新しいものに挑戦するというスピリッツは、誇るべきものだと思っています。

 事件後、「虚業じゃないのか」という言われ方もしましたが、少なくともネット事業にいた人間からすると、“あんまりチャラチャラしてなかったよね”っていうのが正直な気持ちなんです。夜通しメンテナンスをしたり、納期前に徹夜して仕上げたり、ずっと真面目にモノづくりにこだわってきたわけですから。

--「虚業」ではないということを証明するために、会社に残ったという部分はありますか。

池邉氏:そこに関してはあまり“メラーッ”とは、していないですね。この会社には、「何かができそうだ」という期待感がまだまだあります。ネットを使って、世の中のライフスタイルを変えようと思ったときに、別の会社なら倍速でできるかというと、そうでもない。それなら、勝手を知っているライブドアにいた方が、やりやすいかなと。

出澤氏:みんな、割と会社が好きなんじゃないですかね(笑)あまりそんなことは言いませんが。それと、池邉などは特にそうなんですが、ライブドアのサービスは、自分の子供みたいなものですからね。やっぱり思い入れが会社に対してありますよね。良くも悪くも。

池邉氏:エンジニアの離職率は低いんですよ。流動性が激しい業界なのに、事件前後と変わらない割合ですから。まあ、エンジニアというのは、良くも悪くも、そういうことは気にしないものなのかもしれませんが。

世界標準のサービスとそれを目指す人

--先日の記者発表で新型のRSSリーダーについては、海外展開を目標とされていますが…。

出澤氏:それは、中長期的な目標です。モチベーションとして目標を立てる事は重要じゃないかなと。

池邉氏:日本に「YouTube」の事業所はないですしね、ぐらいのノリです。他言語で書いて、ネット上に置いておけば、海外展開といえば、海外展開ですよね。

出澤氏:優秀なプログラマーやベンチャーは、世界標準のサービスを作ろうとしているし、その辺にシンパシーは感じています。

 とはいえ、あまり夢ばかり語っても仕方がないので、少なくとも9月までは既存のビジネスをちゃんとやろうと。夢の部分にたどり着くまでには、スリーステップぐらいあって、ワンステップ目は、普通の枠広告の営業を9月まで頑張ると。ツーステップ目は、新型ブログの「PARC」(仮称)などでコンテンツマッチによってブログのトラフィックを伸ばして、広告収益率の向上を目指したいと。そして、スリーステップ目に、海外展開があったり、大きなムーブメントが起こるようなコンテンツをつくっていこうと考えているわけです。

--アメリカだと、スタートアップのベンチャーやサービスを買収することで、企業はポジティブな方向に進んで行きますよね。国内ではライブドアの事件で、技術力のある小企業がつくる面白いサービスを買い取りづらくなり、ライブドアだけでなく、日本のIT業界全体が停滞したのではないかという話もありますが。

出澤氏:コメントしづらいですねえ…。事業シナジーの必然性があれば可能性もありますが、M&Aをして拡大するという路線はあまり考えていません。

出澤氏:日本人はそうドライにジョインしない文化がありますよね。アメリカのベンチャーのなかには明らかに売却目的で会社をつくっているところもありますから。

出澤氏:この前、ネットの記事で、「堀江さんがいたら『セカンドライフ』と『YouTube』を真似するんじゃないの?」というニュアンスの記事があったんですけれど、自分たちはいま、技術者の感覚としてそのサービスが“あり”か“なし”かを判断しなければいけません。しかし、「“次のYouTube”がライブドアから生まれる可能性がない」とは、誰も言いきれないですよね。楽天さんもヤフーさんも研究所をつくりましたが、そういったものが今後出てくるとすれば、少人数のベンチャーか、それを内包した企業じゃないかという気がします。収益化すべきところは収益化しつつ、次に来そうなところの土台を作っておきたいですね。

--新役員の方々とは、今後の方向性に向けてどんな話をされてきましたか。

出澤氏:分社化の前の週末に、みんなで集まってコーヒーを飲みながら、「それは違うんじゃない?それはそうじゃない?」みたいな話をぼそぼそっとしました(笑)。私自身、リーダーシップを発揮してやってきたというタイプじゃないので。

--お二人で飲んでいるときはどんな感じですか。

出澤氏:お互いにひどいんでね。飲むとアツいんです。

池邉氏:(出澤氏は)スーツを着てますが、ギークに理解がありますね。

出澤氏:ギークに憧れてるんでね(笑)。すごいところをいっぱい見てるし。10人いても解決できない大トラブルの案件も、池邉のような一人のスーパーエンジニアがいたら30分で片付けてしまうものなんです。『三国志』の世界でいえば、そういう人たちは「呂布」なんです。

池邉氏:そういう意味では考え方がギークっぽいですね(笑)。“人月でどう“とか、“人を倍に増やせばいい“とかそういう事は言わないですね。

出澤氏:でも、全体像を考える人間も必要なんです。ただ、それだけだと中規模のいい会社にはなっても、すごいものは出てこない。でも、こっち側のギークな部分があれば、世の中を変えるようなものが出てくる可能性がある。

--エンジニア以外の部署の人たちにはどのようにハッパをかけてますか。

出澤氏:うちはいままで技術が強いのに、会社全体のルックスや方向性にまぎれて、アピールしきれていないところがあったので、あえて“技術”というワードを使っているんです。再上場は正直検討段階に入っていませんが、理屈的には一回下に降りたので、新しく生まれかわった会社だと言っています。

 プログラマーって0を1にする人たちじゃないですか。でも1を2にしたり10にするのは、企画の人間で、それを20で売るのか18で売るのか決めるのは営業の人間なんです。もし、我々に強みがあるとしたら、優秀な技術者だけでなく、優秀なプロデューサーも揃っていることかもしれません。その両方を持っている会社は少ないんじゃないかなと。

 会社全体のあり方として、営業まで含めて、技術の事がわかっていて、「次に来るのはこれで、それをマネタイズするのはこれで」という感じで、チームワークが発揮できれば、非常に素晴らしいと思いますね。