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2008年7月 2日 07時38分

夢、友情、悲鳴

清水亮 ユビキタスエンターテインメント 代表取締役社長 清水亮

過日、新橋の居酒屋で。

「最近、妙にあいつ、寂しがってないか?」

「毎日飲み歩いてるっていう話だろう。そういう年頃なんじゃないのか」

「それにしても、最近はよく電話が掛かってくるんだ。忙しくて出れないことが多いけど」


数日後、赤坂の韓国料理屋。"あいつ"と僕たちは会った。

「おまえはゲームなんてやめちまったのか?」

「辞めてはいないさ。ただ、ゲーム会社の経営は難しいからな」

「どう難しいんだよ」

「突き詰めれば単なる投資事業だ。しかも競争の激しい投資事業で、リスクは高く、リワードは低い。大ヒットを飛ばすまでひたすら耐える。大ヒットが飛んだら、その余力があるうちにまた次の大ヒットを飛ばすまでひたすら耐える。この勝負では、人材と資本が多い方が絶対に勝つ。アイデアで勝負はできない」

「おまえいつからそんな守りに入ったんだよ」

「別に守ってなんかない。冷静に戦況を述べただけだよ。その上で、生き残るために勝てる戦いをする」

「お前の夢ってなんなんだ」

「不滅の組織を作ること。組織の影響力を拡大し、維持すること」

「つまらん夢だ」

「そうかもしれない。けど、それが僕の責任だ」

「一緒にゲーム作ろうぜ。また、昔みたいに思いっきり」

「もちろん作るさ。ただ、チャンスを待ってる」

「腰抜けめ」



さらに数日後、別の人間と。

「先週、あいつと飲んだんだけど、酷く荒れてたぞ」

「どう荒れてた?」

「おまえのことばかり話していた。失望した、とか、ガッカリだ、とか、守りに入った、とか」

「僕のどこが守りに入ってるというんだ」

「俺もそう思うよ。おまえは経営者としてガンガン攻めてる。けど、クリエイターであったおまえが、経営者の立場で考えるようになっただけだ。それは成長だよ。俺はあいつにそう言ったんだけど」

「それで?」

「クリエイターでなくっちゃダメだろって。妙にものわかりが良くなって、勝手に大人ぶって。なんなんだと」

「余計なお世話だ。社員を路頭に迷わせないということが僕の最優先事項なんだ」

「そりゃ俺は解ってるって。・・・・けど、みんな会社やめて独立して、あいつ一人、なんだか取り残されたような気分だったのかもな」

「でもあいつは大メーカーのエリートで、会社の資産を自由に使ってモノがつくれる立場にいるわけだろう。恵まれてるんだよ。僕らみたいなゲリラとは違う」

「最近はがんじがらめで思うようにものが作れないとぼやいていたよ」

「今のご時世、どこの会社に行ったって似たようなものだ。その中では、むしろ一番恵まれてる類じゃないか。あいつは」


昨夜、電話で。

「おい、あいつ転職するらしいぞ」

「えっ。どこに?」

「ゲーム会社じゃないんだよな。どうも。老舗の中堅会社だけど」

「先月あれだけゲーム作りたいって言ってたのに?」

「なんかずっと悩んでたらしいんだよ」

「そうだったのか。ぜんぜんわからなかった」

「でも本当にあいつがあの会社に行って幸せなのかはわからない」

「あいつの夢は、そこで実現できるのか。それとも急にこの一ヶ月で夢から覚めちまったのか」

「悲鳴だったのかもな。あれは。あいつなりの」

「SOSだったのか・・・そうかもな」

「とはいえ、まだ迷ってんじゃないかな。相当いいオファーが来てるらしいけど」

「あいつは目先の金で動くタイプじゃないだろう。迷うとしたらなぜだ?」

「まだ待ってるんだと思うぜ」

「何を?」

「チャンスって奴」

※このエントリはVENTURE VIEWブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および VENTURE VIEW編集部の見解・意向を示すものではありません。

清水亮

清水亮

ユビキタスエンターテインメント 代表取締役社長

1976年新潟県長岡市生まれ。1998年から1999年まで米MicrosoftでゲームSDKの開発と普及活動に関わる。1999年9月のCESA DEVELOPERS CONFERENCEの立ち上げを経て、11月にドワンゴにて携帯電話コンテンツ事業を立ち上げる。2002年、日本人として初めて米国ゲーム開発者会議(GDC)のモバイルトラックでスピーチを行い、それをきっかけに渡米。米DWANGO North Americaコンテンツ担当副社長を経て、2003年ユビキタスエンターテインメントを設立。2004年情報処理推進機構(IPA)未踏ソフトウェア創造事業において次世代文章アプリケーションプラットフォームの研究開発を行い、2005年天才プログラマー/スーパークリエイターに認定される。 2006年、同研究に基づく独自のコンテンツ管理システム「ZEKE CMS」を考案し、製品化した。著書3冊。