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人生における背水の陣をいつ敷くか

代表取締役社長
清水 亮
2008年05月12日 04時17分

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先日、よく知っている学生の子から、「教授に勧められているが、大学院に飛び級すべきかどうか悩んでいる」という相談を受けました。

すかさず「できるならするべきじゃん」と僕は言ったのですが、言ってしまってから「ああ、でも君自身のことだから自分でよく考えなさい」と言い直しました。

大学を出てないからよくわからないんですけど、今は三年時の修了証明があれば大学院に入学できる場合もあるそうなんですよね。それを便宜上飛び級と呼ぶらしいんですが、そもそも大学院に入ってしまうと、就職には不利になると思います。

飛び級する場合も、喪う者はなくはないのです。要するに「大卒」でなくなってしまうわけで、「大学院卒だけど大卒ではない」人になってしまいます。

これは万が一、その道が向いてなかったと解ったときには致命的なリスクになるかもしれません。


 「清水さんは中退するとき、どんな気持ちだったんですか」

 「少しは悩んだけど、僕の場合、既に卒業できる見込みはゼロに等しかったし、就職するイメージとかもってなかったしね。それに面白い仕事があった」

 「どんな?」

 「DirectXさ。そのエヴァンジャライズ活動の補佐。実質的にはそこに関わる企画から実施方法まで全て任されていた。嘱託扱いだったけど、かまうものか。新卒で入ったらまずやらせてもらえない仕事だ。だから迷いはほとんど無かった。それよりもこのチャンスを逃してしまうことの恐怖が先にあった」

 「じゃあ後悔したことは?」

 「なくはない」

 「どんな?」

 

 「就労ビザの申請で苦労した。特に911の直後で、学士でないとH-1ビザが下りなかった。在米企業に直接雇用されるためには、いろいろと制約が厳しかったんだ。結局、知人の西田先生や夏野さんなんかに英文で推薦状を書いて貰ったりしてGビザを申請することになったけど、あのビザは絶望的なビザだ。あんな思いはできればしたくなかった。最高の仕事があり、それをさせてくれる会社があり、やる気もあったけど政治でダメになるかもしれないなんてね」

 「じゃあ海外の会社で働けなくなるかも知れないってことですか」

 「君の場合、大学院を卒業すれば平気だ」

 「僕は博士までいくつもりなんです」

 「まあそりゃそうだ。しかし・・・」

 「しかし?」

 「この道は獣道だよ。今のまま卒業すれば、エリートとして幸せに生きられるかもしれない」

 「エリートとしての幸せってなんですか?」

 「平穏無事に生きられると言うことだよ。それ以上の幸福があると思うかい」

 「平穏なのが幸せとは思えないんですよ」

 「若いうちは僕もそう思ってた。けれどもレールから一度ドロップアウトしてしまったら、実力だけで生きていくしかないよ。その覚悟が必要だ」

 「覚悟はしたんですか?」

 「それまで僕は、大学に在籍しながらもいろいろな会社で働いていたんだけど、どうも辛くなると最後は大学に逃げるという傾向があった。自分のなかで「まだ学生だから」という甘えがあったんだな。そういう気持ちを断ち切るために、僕は辞めたわけだ。それが覚悟といえば覚悟かな」

 「うーん」

 「無責任に言わせて貰えば、仮に研究者として生きるつもりなら、どのみち大学院には行くんだ。だったら早いほうがいい。20代の1年はそのあとの1年よりずっと重要なんだ。1秒でも無駄にしてはいけないよ。ひとより一年早く高等教育が受けられるなら、僕だったら迷わずそのチャンスに飛びつくな。エリートとしての生き方を棄てるなら、学歴なんかあってもなくても大差ない。博士号なんて持ってる人はゴマンと居る。研究者にとって重要なのは、独創的な研究をすることであって、博士号をとることじゃない。ゲイツもジョブズも大学を中退してるしね」

 「本当言うと、99%くらいは気持ちは固まってるんですよ」

 「どのみち君が残りの1%を決めるしかない。僕は後押ししないよ。かといって反対もしないが、だから覚悟だよ。問題はそれだけだ」

 「うーん・・・わかりました。僕はこれからどんな勉強をすればいいと思いますか」

 「君は優秀だが、歴史を知らなすぎる。君たちの世代は本を読まずにネットに頼りすぎる」

 「そうですね。周りでもほとんど本を読んでる人がいません」

 「若い連中はインターネットと書籍とで、その歴史の厚みを比べたことがないからだ。特に最近の新刊は、ネットにかいたことをまとめて売るような粗悪な作りの者も少なくないから、余計に本に失望しているのだと思うけど」

 「いや、その通りです。検索したほうが早いし」

 「けれども、ネット以前に書かれた本の方がずっと多いし、電子化されていない情報の方が遙かに多いのだ。そして歴史を知らなければ未来を予想することは極めて困難だよ。時代というのは常に流れているが、その進化の仕方にはゆるやかな法則性がある。その法則を知らずに技術の進化を見極めようとすれば、簡単に袋小路にはまってしまう」

 「なるほど。断面だけみてはいけないのですね」

 「歴史を学ばず、断面から発生する未来の可能性は無限になってしまうが、歴史の流れをきちんと掴めば、未来を構成する可能性の大部分は排除できる。したがって歴史を学べばそれだけ未来予測の精度を上げることが出来るはずだ。未来予測の精度が上がれば、いずれ必要とされるであろう技術トレンドも高い確率で想像できる。だからなによりもまず歴史を学ぶべきなんだよ。この産業の歴史を」

 「まずどのあたりから読めばいいですか」

 「うーん、じゃあこれとこれとこれを貸してあげよう。読みやすいと思う。本は飽きたら他の本を読んで、しばらくしたらまた戻るというのが最後まで読むコツだ。また、歴史の本は飛ばしながら読んでも意味が掴めることは多い。最初はつまらないと思うかも知れないけど、いずれ自分がこの歴史の一部になるのだということを意識して読むんだ。そうすれば、見えなかったものが見えてくるようになる」

 そういって三冊の本を渡しました。

 どうなることやら。

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プロフィール

1976年新潟県長岡市生まれ。1998年から1999年まで米MicrosoftでゲームSDKの開発と普及活動に関わる。1999年9月のCESA DEVELOPERS CONFERENCEの立ち上げを経て、11月にドワンゴにて携帯電話コンテンツ事業を立ち上げる。2002年、日本人として初めて米国ゲーム開発者会議(GDC)のモバイルトラックでスピーチを行い、それをきっかけに渡米。米DWANGO North Americaコンテンツ担当副社長を経て、2003年ユビキタスエンターテインメントを設立。2004年情報処理推進機構(IPA)未踏ソフトウェア創造事業において次世代文章アプリケーションプラットフォームの研究開発を行い、2005年天才プログラマー/スーパークリエイターに認定される。 2006年、同研究に基づく独自のコンテンツ管理システム「ZEKE CMS」を考案し、製品化した。著書3冊。

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