株式会社クレイジーワークス 代表取締役ワーキングプア 村上福之
先日、テレビ東京のWBSを見ていて懐かしいものを見た。朝礼で巻物を取り出し「松下電器の遵奉すべき精神」を唱和する風景だ。松下電器ではほぼ毎日見かける日常で懐かしかった。WBSでは、その風習が理解できないと講義する外国人社員にフォーカスを当てていた。「そんなことをする暇があれば集中して仕事がしたい」と上司に抗議していた彼を見て笑ってしまった。まったく10年前の自分と同じことを言っていた。
「松下電器の遵奉すべき精神」とは、松下電器の中のほとんどの職場で毎日唱和する7か条だ。詳しくはWebにかいてあるが、松下の経営に対する思想・哲学が書いてあり、働いているときには、ありがたくも何も無いうクソ古臭い風習以外の何者でもなかった。
ただ、松下の外に出て、会社を作って働いてみるとその経営思想の深さに気づかされる。
松下の外で気づいたことは二つある。ひとつは、ほとんどの会社は顧客や社会のことを松下ほど重要に考えていないこと。もうひとつは、経営理念を宗教化すると離職率は低くなる上に社員は給料以上に働くということだ。
ほとんどの会社は利益を追求するのに必死だと分かったのは松下を辞めた後のことだ。松下で働いていると、働いているというより学校に通っているような感覚に近い。「松下電器の遵奉すべき精神」も、短く言えば「世の中のために、礼儀正しく、ウソをつかずに、みんな一緒にがんばりましょう」というものだ。小学校の道徳みたいな当たり前の内容だが、これらの「当たり前」は多くの企業にとっては最も真っ先に抜け落ちてしまうものだということに気づかされる。
ITベンチャー企業だと「カネが大事に決まってるだろ!」というのが普通だし、多くは目の前のことしか考えていない。従業員の多くは離職率も高い。給料が安いとすぐに社員は逃げて行く。
一方、松下電器では何か議論になると売上げよりも「ウチの商品こうてくれるお客さんが喜ぶんかいな?」ということが重要で、社会的利益を常に考えさせられる。離職率は異常に低い。給料は同業のS社より結構安いのに社員は辞めない(笑)。むしろ、S社の社員の方が離職率が高い。
いろんな意味で後者の方がメリットがあるように思う。
「松下電器の遵奉すべき精神」は良くも悪くも企業倫理重視の思想だ。企業倫理なんて、無いほうが短期的な利益は追求できる。しかし、そうなると会社は長続きしないし、離職率も高くなるだろう。10年後、20年後の成長を考えたときには、社会の公器となりうるには必須の思想だと思う。
多くの松下の社員は「毎日毎日、うっとおしいこと言わされて馬鹿馬鹿しい」と思うだろう。しかし、それが当たり前の世界だからむしろ幸せだと思うし、多くの会社はそんなことに気を配る余裕は無いのが現実だ。あの「うっとおしい儀式」は蜘蛛の糸にぶら下がった大事なものを落とさないための儀式だと思う。
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