ユビキタスエンターテインメント 代表取締役社長 清水亮
iPhone向け多言語対応コミック第一弾として「薬局のポチ山さん」をリリースした。評判は上々だ。
ABlog 薬局のポチ山さん、iTunes app storeの書籍部門で4位、有料アプリ全体で11位
ここにも書かれているように、基本的にはUstream中に思いついただけだった。
「iPhoneでマンガを読むと面白い」ということを最初に教えてくれたのは誰あろう増井俊之さんだった。
彼がiPhotoでマンガを取り込み、自分のiPhoneでみせてくれたのだ。「ほら、こんなに見やすいでしょ」と。
全てはそれが発端だった。
コミックビューアなんか誰でも作れるし、誰でも作るだろう。
そういうなかで、僕らが目指したのは「紙っぽさ」だった。
たとえばセルシスさんだとか、シャープさんだとかはケータイ向けコミックビューアのデファクトスタンダードである。
これらのビューアに共通した長所は以下の通りである。
1)ケータイ向けに最適化された1コマごとのブラウズ
2)展開に応じて効果音やバイブレーション、スクロールなどの演出も可能
3)クリックするだけで台詞を拡大できる
4)データはバックグラウンドで読込み
しかし、これをそのままiPhoneに展開しようと考えると、いくつかの長所は短所に変わる。
1)ケータイ向けに最適化された1コマごとのブラウズ
→必ずしもiPhoneでは最適ではない
2)展開に応じて効果音やバイブレーション、スクロールなどの演出も可能
→専用のデータを作る必要がある
3)クリックするだけで台詞を拡大できる
→画像のどの部分が台詞なのか切り出し作業が必要
4)データはバックグラウンドで読込み
→電波の通じないところでは読めない
ケータイ向けコミックビューアは、日本の携帯電話専用ということで、日本の携帯電話特有の事情や、表音文字ではなく表意文字であるという日本語特有の特徴を利用して成立している。
紙の本をスキャンして、コマごとにバラバラにし、台詞を抜き出し、正しい座標を設定する、俗にいう「オーサリング」作業が必要となる。
当然、これは人件費の安い海外で作業が行われることが多い。
その結果、ときどき前後のつながりがおかしかったり、コマのつなぎ順が間違っていたりすることがある。
これをワールドワイドに広げようと思ったら、オーサリングレベルからやり直しだ。
これではとても7カ国語などへ広げて行くことはできない。
逆にいえば、iPhoneを使って海外への展開を考える時点で、既存のデファクトスタンダードは、スタンダードではなくなるのである。これはひとつのチャンスだ。
なぜなら日本国内において、ケータイ向け電子書籍、とりわけ電子コミックは非常に有望な市場に成長している。海外での日本製マンガコンテンツの評価も少しずつ高まってきている。だとすれば、いち早くよりシンプルな答えを示せば、わずかではあるが勝機はあるのではないか。
そこで僕らが考えたのは、できるだけシンプルなマンガビューアだ。
操作は起動と「めくる」しかない。それと拡大。基本的にはiPhoneの画面をひとつの紙に見立てて、これをめくるだけだ。
こうすることによって、もとの原稿にほとんど手を加えること無く電子化が出来る。
もとの原稿をバラさなくていいから、多言語化も簡単だ。
iPhoneのアプリはひとつのアプリに複数の言語バージョンを入れることができる。
言語環境が切り替わると自動的にそれを認識し、英語環境なら英語版に、日本語環境なら日本語版になる。
これはもちろん、気合いと時間次第で対応言語を増やすことができる。ただ、今回は英語と日本語のみとした。単純にこれは実験だからだ。
このビューアのプロトタイプは、想像されている通り、かなりの短時間で完成した。
サンフランシスコからモントレーへ行く途上の車中で、SO905iCSから布留川君にメールを書いた。
「iPhone向けのコミックビューアを作りたい。とりあえず画像が出てきて、めくるだけでいい」
ホテルに戻る頃には、既にプロトタイプは完成していた。
これにどんなコンテンツを載せるべきか。
もちろんオリジナルのものを載せられると良かったのだが、それでは時間がかかってしまう。
そこで懇意にしていただいているイラストレーターの安倍吉俊さんにホテルから電話をかけて、過去の同人作品を電子出版させて貰えないか、という話を持ちかけたのだ。
安倍さんは二つ返事で承諾してくださり、数時間後には原稿が届いた。
それを日本のスタッフに渡し、プロトタイプに流し込んだ。
それで気付いたのは、文字が読みにくいということだった。
やはり台詞の部分だけ拡大するとか、そういう工夫が必要だろうか。
しかしそれでは、結局のところコマごとに切り出すオーサリングが必要になってしまう。
ひとつのコンテンツを作るのにオーサリングの手間は少しでも減らしたい。
また、マンガは本来、ページ単位で読むものだ。
それをコマごとに切り出してしまっては、ときどきおかしくなる。
ストーリーを追うのに問題はないが、それは本来のマンガ表現ではなくなってしまうのだ。
これは原作者の安倍さんにも再三言われたポイントだった。
そこで、台詞の部分だけiPhoneで読みやすくリライトすることにした。
拡大しなくても文字が読めるように写植を組み直したのである。
もっとも頭を悩ませたのは、値付けである。
安倍さんの同人誌は、一回のコミケで1000部以上は軽く売れてしまう。
しかも、一冊1000円くらいする。
これはカラー印刷を多用していることと、お釣りを用意できないことなどから、同人誌即売会という特殊な場所で決まった値段だ。
そもそも同人誌というのは、ほとんど原価で流通しているものである。
500円の同人誌を印刷するのに600円かかるというのもざらだと言う。
とはいえ、500円は500円、1000円は1000円だ。買った側にとってみれば、それが逆ざやなのか、それとも利益がでているのかはどうでもいいのだ。
そこで翻って考えるに、iPhoneで出ているからと言って、むやみに安くしてしまうと、それまでの同人誌を買った人はどうなるんだという問題がある。
とはいえ、印刷をしないうえ、売り子の手間もないものを同人誌と全く同じ値段で売るというのも、どうかと思う。
さらに「沈黙の艦隊」だ。これには頭を抱えた。安過ぎる。115円で三話読める。
今回に限って言えば、このアプリ単体での儲けは度外視だ。
とはいえ、115円で出してしまうと、それまで1000円を出して同人誌を買った人があんまりだ。
また、ここで価格破壊をしてしまうと、そもそも安倍さんの同人誌自体が売れなくなってしまうかもしれない。
さりとて、知名度のある沈黙の艦隊の何倍もの値段をつけていいものかどうか。
苦肉の作として、三巻セットで600円とした。これでも本当は安過ぎる。
しかし、ケータイコミックの相場として、50ページの本一冊で600円はかなり高い部類に入る。
これでもアメリカのAppStoreのコメントでは「マンガが$4.99は高過ぎる」と言われてしまった。
でも、実際にアメリカで売られている日本のマンガの値段を見てみると、$9.99くらいはするのである。同人誌であることを考えなくても、安過ぎるくらいだ。
そんな文句を言いながらも、やはり世界で二番目に「薬局のポチ山さん」を買っているのはアメリカ人だ。
アメコミにはない、ハイクオリティな書き込みのMANGAが、いつでもどこでも、たった$4.99で楽しめるのだ。僕は高くないと思う。いまは解ってもらえなくても、いずれアメリカ人にも解ってもらえる日が来るだろう。実際に買ってるのだから。
今見ると、他のユーザから「普通のマンガは$9.99だ。リーズナブルだろ」という意見も書き込まれていた。期待されているのだと思う。
また、誤解を招かないようにページ数は明記することにした。
ページ数に対する価格感というのは国によって大きな開きがある。
ゲームでたとえると解りやすいかもしれないが、アメリカ人というのは、ゲームというのはとにかく難しければ難しいほど市場性があると思う傾向が強い。彼らは日本人に比べると、同じものを根気づよく遊ぶというモチベーションよりも、体験時間の総延長を求める傾向が強い。だからピンポールやテトリスはいくらでも遊べるのだ。無限に点数が上がるから。
日本的な難易度調整のゲームをアメリカ人に遊ばせると、決まってこういわれる。
「リョウ、ノービスモードはもう解った。ハードモードはないのか?」
そんなものはない。スーパーマリオにハードモードがあるか、と聞くと、彼らは首を振ってこう言うのだ。
「スーパーマリオは過去のゲームだ。それに、あのゲームはワープゾーンを使わなければ、1-1から8-4まで32ステージある。これは十分な難易度だ。でもなリョウ、お前のシューティングゲームはたった5ステージしかないじゃないか」
シューティングゲームというのはそういうものなのだ、倒し方によってスコアが青天井に上がって行くのが面白いのだ、という理屈は彼らには通用しない。難易度をあげて、先に進めないようにしろという。
彼らにとってゲームとは、難しければ難しいほど良いのだ。ただしクリアできないほど難しくてはいけない。しかしクリアまでどんなに頑張っても、平均的なプレイヤーが一ヶ月くらいかかってようやくクリアできるくらいがいいのだと。
ファミコンの時代からゲームに期待されるものがあまり変わってない。
おそらく書籍とマンガも同じような基準で比較される危険性がある。
アメリカにはいわゆる「マンガ雑誌」というものがない。というか、あるのかもしれないが少なくともポピュラーではない。
そしてマンガの単行本は、ペーパーバックよりも圧倒的に早く読み終わってしまう。
これが問題だ。
だからとりあえず先に書いておくしかない。50ページしかないよ、と。1ページあたり10セント払う覚悟がある人だけ買ってよね、と。
それでも文句が出る。
彼らには同人誌であろうが商業誌であろうが関係ないのだ。
しかし逆にいえば、だからこそチャンスであると言える。
日本で全く無名のマンガを海外で再チャレンジさせる大きなチャンスだ。
世界にはいろいろな価値観を持っている人が居るから、日本ではニッチでも海外で大化けする可能性もある。
たとえ大化けしなくても、日本語人口と英語人口*1は10倍違う。ハズレたとしても10倍のチャンスがあるのだ。
北米向けマンガ出版事業というのは、もしかしたらとても面白いビジネスかもしれない。
我こそはという創作系同人マンガを書いている人を募集して、海外デビューを支援するビジネスも面白いかもしれない。
つくづく、AppStoreはとても面白いプラットフォームだ。
そうそう。PR
安倍さんは第弐回天下一カウボーイ大会でパネルディスカッションにも参加していただきます。
*1:第二言語までで英語を扱う人口
※このエントリはVENTURE VIEWブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および VENTURE VIEW編集部の見解・意向を示すものではありません。
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